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第48話
※性表現を含みます、ご注意ください
何となくバツが悪くて、あっさりと捕まったことに、ジタバタと抵抗してみる。「シロ! もう逃げないから降ろして。恥ずかしい」。
「このくらいの羞恥は浮気した罰だ」
「は? 浮気してないっつの」
「浮ついただろ」
「浮ついてもない! そもそも浮ついたのはどっちだよ」
竜ヶ崎は抱える弓月を見下ろし、「逃げ道があること自体、気に食わねぇ」と冷ややかな視線を向ける。
背筋まで凍りつく冷たさに、弓月はこれ以上の反抗を自重した。
それから無言で自宅に送還された弓月。靴も乱雑に脱ぎ捨てられ、抱えられたままベッドに投げられる。セミダブルのベッドでも竜ヶ崎のガタイの良さで、シングルのような錯覚を覚える。
弓月に跨るも、熱の籠らない視線でこちらを見下ろす竜ヶ崎。
「今日、俺の連絡を無視した。その後も俺を蔑ろにした。そんで、さっき。八つ当たりとも思えるようなことを言いやがった。本当なら一個一個聞きたいところだが、説明しなくていい」
「今は身体《こっち》に聞く方がまともな返事がもらえそうだし」と、早々に服の中に手を忍ばせてくる。
弓月の嬌声も受け流すかのように、忍ばせた手が上へ上へと服を捲りながら上がっていく。その間、竜ヶ崎は弓月の首筋から耳の裏にかけて口付ける。わざと音を鳴らし耳の裏まで到達すると、今度は耳の中に舌を這わせて粘着質な音を直に感じさせる。
さらに、捲る手以外の余った手は、もう片方の耳を擦り両側から異なる刺激を与えた。
そして、弓月の上半身が露わになった時、「その表情の片鱗でも、誰かに見せたらくびり殺してやるからな」とようやく熱を帯びた視線を弓月に向けた竜ヶ崎。自身の服を脱ぎ捨て、その時間さえ厭わしそうに舌打ちをする。
「シロ、ちゅー、まだしてない」
腕を伸ばして竜ヶ崎の頬を捕まえて引き寄せる。
「……ククッ、本当、お前が他の奴に横取りされる想像なんてしたくねぇ」
「ゆづ、舌出しな」そう弓月に促す竜ヶ崎はニヒルに笑む。
それからは手が早く、深く弓月の口内を好き勝手に楽しみながら、手持ち無沙汰になった竜ヶ崎の手は下半身へと移行する。あっという間に直触りで弓月の局部を硬くさせた。
しかし、切なく収縮を繰り返す孔には一切触れず、局部をひたすら扱く。キスで沸騰する身体は、弓月も自覚せざるを得なかった。日頃から徹底した孔への快楽は、とっくの前から竜ヶ崎の手中にあり、竜ヶ崎から与えられる刺激を求めてやまないのだと。
そして、竜ヶ崎は物足りない弓月が、自ら快楽を求め自分に縋ることを待ち望んでいる。現に、含み笑いをしたままキスを続ける竜ヶ崎が、局部を扱き尻を撫でる。
だが、その先の孔へは関心を示さない。割れ目までは撫でるくせに。
弓月は次第に生理的な涙で眼を潤ませる。
それを親指で拭う竜ヶ崎は、「ゆづの言いたいことは何となく分かってるが、その前に、約束しろ」と言いつつも局部への愛撫は止めない。
「近村の家に一人では行くな。いいな」
そうは言うものの、上り詰めるような刺激で、竜ヶ崎の思惑を読み取ることなどできるわけもなく。ただただ刺激を感受し続ける弓月。
それを許さない竜ヶ崎は、尚も刺激を止めずに「約束できないなら、これより先はナシだ」と強硬的な態度を崩さない。
「どうする? 俺はこのまま止めたっていいんだぜ」
「嫌だぁ!!」
焦らされたことに腹を立てて泣いているのか、それとも迎えそうな絶頂が何度も寸前で沈下してしまうもどかしさで流す生理的な涙なのか、弓月自身も既に分からない。
だが、抵抗する理由はどこにも無い。
「約束するからっ」
「忘れんなよ」
そうして、ようやくお待ち兼ねの竜ヶ崎が弓月を恍惚の表情にさせる。その日は朝方まで、弓月が一度も意識を飛ばさず、終始竜ヶ崎を求め続けた。
そして、弓月の目が覚める頃、セミダブルベッドの片側はやけに広い。
テーブルに置かれた書き置きと、簡易食。竜ヶ崎は既に一限目に出席しているらしい。メモには、『無茶をさせたから、今日は休んどけ』の一言。
「はぁー……。結構俺持ち堪えたと思ったんだけどなぁ。シロってば、体力鬼だわ」
枕に顔を埋めて、蘇ってくる腰の痛みに耐える。結局、抱き潰すつもりが、潰されてしまったのだ。
昨晩だけは充足感に満ち足りていたが、夜が明ければ昨日と変わらぬ日常が始まっている。
変遷の波に乗り遅れたのは、弓月だけである、とこの身を持って感じずにはいられなかった。
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