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10.狐は語る②

「……お前は自分が、昨夜念影に襲われた理由を知っているか?」  半ば蒼月に見とれていたコウは、その声でハッと我に返った。蒼月から目をそらして心臓の早鐘を抑えつつ、答えを告げる。 「分からない……」  口にした途端、心の奥がざわめいた。  そう、何も分からないのだ。  自分が異形に好かれる体質なのも。  誕生日を迎えて急に異形に襲われるようになったのも。  それから――こうして蒼月が自分の目の前に現れた理由も。 彼は異形で、しかも狐という人を欺す生き物だ。淳の言っていた通り、その言葉には幾つもの嘘が混じっているかもしれない。だがそれでも、この心にわだかまった疑問を少しでも解消できるなら、聞いてみる価値があるだろう。 「教えてよ。お前の知る――俺に関わるすべての事を」 「……もとよりそのつもりだ」  蒼月はソファにもたれていた背筋を伸ばし、真剣な面持ちでコウを見つめた。 「お前が念影に襲われていた理由――それはお前が特別な魂を持つからだ」 「特別な、魂?」  首をひねるコウに、蒼月は淡々と話を進めた。 「当たり前だが、人間が持つのは人間の魂だ。だが、先祖が異形と関わりを持っていたり、あるいは異形に魂を干渉された事によって、稀に異形の魂が混じった人間が生まれてくるのだ。この類いの人間はこちら側に惹かれやすく、生まれつき異形を見、言葉を聞き、時に彼らを払う力を持つ。お前もそういう人間の一人だ」  異形の側に近い者には、魂の中に異形の成分が入り込んでいて、魂が普通の人間よりも異形に近い存在だから、彼らの事を認識出来る。その理屈はなんとなく理解はできた。しかし、である。 「その説明じゃ、俺が特別って感じはしないけど」  訝しげな目を向けると、蒼月は軽く頷いた。 「ああ、混ざっていること自体はさほど問題ではない。面倒なのは……お前の中にある異形の魂が、妙に強力ということだ。だから念影に美味い餌として認識される」 「どうして? 力が強いなら、逆に恐れて逃げていきそうな気もするけど」  すると蒼月は首を横に振った。 「確かに魂が強ければ強いほど抱く力も強力になり、他者に恐れられるようになる。だが、それは異形であればの話だ。人間の魂を持つお前は、どこまでいっても人間に過ぎない。異形から見れば、非力な存在だ」 「……」  無言になったコウに、蒼月は一旦言葉を切る。そして目の前に置かれたコーヒーのカップを手に取り一口飲んだ後、ひどく顔をしかめて「ところで」と話を再開する。 「異形の力は生来の魂に宿る力によって決まる。だがそれとは別に、後天的に力を高めることもできるのだ。無論、方法はいくつかあるのだが……最も手っ取り早く効率のいいものは、何かわかるか?」  人間であれば、修行や勉強といった答えになるのだろうが、蒼月がしているのは異形の話。こちらの常識を当てはめられるはずがない。  顔をしかめながら首をひねるコウ。その時ふと、今は自分についての話の途中なのだという事を思い出した。  そう。今蒼月は、コウ自身のことを話している。どうしてコウが異形に襲われ、喰われそうになっているのか、その話をしている途中なのだ。  ならば、答えは。 「もしかして、他者を喰って力を奪う……とか?」

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