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11.狐は語る③

「その通り」  答えつつ、蒼月は一層目を鋭くした。 「特に力の弱い異形は異形同士で喰い合って、魂に宿る力を奪い強くなる。その場合、勿論自分が制することの出来る相手になる故、一度の捕食で得られる力は通常さほど多くない。だが……」 「魂に宿る異形の力は強いけど、人間という弱い存在の俺は、簡単に喰うことが出来る上に多量の力を得られる美味しい餌……」  呟くコウに、蒼月は首を縦に振る。 「そうだ。とはいえ、人間を襲うという事は、同時に人間から悪鬼と見なされ祓われるという危険も負うことになる。故に頭のいい異形は人間に近寄りこそすれ喰いはしない。手を出すのは本能に従い生きている異形……念影くらいのものだ」  そういえば誕生日から昨日までで自分を喰おうとしていたのは、蒼月が倒したような、不定形の闇に目が付いたような姿をした異形――念影ばかりだった。  彼は少なくとも、今の言葉だけは嘘を付いていない気がする。ならば少しはは蒼月の事を信用してもいいのかもしれない。  コウがそんな事を思った時、「だが」と蒼月の纏う空気が一気に張り詰めた。 「例外というのは、いるらしいな」 「……っ!」  ずるり、ずるり、と蒼月の後ろの壁から狐の頭が二つ映えてきた。  真っ白な毛並に深く裂けた赤い口。細い眼孔の中には、金色の目が爛々と光っている。その視線は、真っ直ぐコウと蒼月を捉えていた。 「行くぞ。続きは後だ」  席を立った蒼月は、驚き固まっているコウの手を引き歩き出す。その後ろで、二匹の狐の身体がぼとりと床に零れ落ちた。  その異様な光景に、カフェの客や店員は誰ひとりとして気付いていないらしい。皆足早に外へ向かうコウと蒼月を、不思議そうに眺めているだけだった。 「ありがとうございましたぁ」  店員の呑気な声を後ろに、二人はと共に店の外へ出る。そして息をつく間もなく、再び蒼月に手を引かれて通行人の間をぬって走り出した。  集中する視線を感じながら、コウは蒼月に向かって叫ぶ。 「ねえ、念影以外は普通襲ってこないんじゃなかった!?」 「言っただろう。あれは例外だ」 「そっか分かった! でも、お前の術があれば襲われないんじゃなかったっけ!?」 「……それも例外だ」 「例外ばっかじゃん!」  蒼月は無言を返しつつ、大通りから路地に入る。そこで一瞬足を止めたかと思うと、変化を解いて昨夜会った時と同じ、白銀の九尾の姿になった。 「気にする必要はない。私がいる限り、お前に手出しはさせないからな」  蒼月は袖の中からサッと何かを出したかと思うと、コウの左手首にはめた。 「念のためそれを付けておけ。念影には効果なしだが、あの狐共になら効くだろう」  そこにはまっていたのは、青い玉の連なったブレスレットだった。路地裏の暗がりの中でも深い輝きを放っている。それはどこか、蒼月の瞳にも似ていた。 「これは?」 「地獄の宝具だ。身につけていれば奴らに認識されなくなる」 「そんなの俺に使って……うわっ!」  自分に使ってもいいのかと問いかけようとした言葉は、蒼月によって遮られた。彼が急に、コウの身体を抱いたのだ。 「ちょっと! この抱え方はやめてよ!」  背中と膝の後ろに手を回されて、蒼月の前で横に倒され抱かれている。要するに、『お姫様抱っこ』という奴だ。男に抱かれるだけでも羞恥で顔が熱くなるのに、こんな抱え方をされては心臓が持たない。荷物の如く脇に抱えられた方がまだましだ。  だがコウの訴えを、蒼月は勿論聞き入れない。  路地の端から向かってくる二匹の狐を睨みつつ、コウに一言告げた。 「私の首に掴まっていろ」 「えっ!? 待って――」

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