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14.狐は誓う①

「うえっ……もう無理……」  数分後、コウは自分の住むマンションの屋上で、四つん這いになってえずいていた。そんなコウの頭の上から、さも不思議そうに蒼月が問う。 「この程度で身体を壊すとは……人間とはつくづく難儀なものだな」 「お前達と比べないでよ……」  頭のぐらつきに耐えながら、なんとか顔を上げて彼を睨んだ。  結論から言えば、確かに蒼月は電車よりも速かった。彼が術を発動させ、一歩踏み出した瞬間に、周囲の景色が飛ぶように変化した。そしてほんの一、二分で、ここまで着いてしまったのである。  彼曰く、縮地術という技らしい。だが、それをすごいと思ったのはほんの一瞬で、あとは猛スピードで流れる景色と激しい揺れにより、見事に気分が悪くなってしまった。 「次は……術使わず普通に運んで……」 「次、か。ああ、わかった」  苦しむコウの言葉を聞いて、蒼月は何やら満足げな表情になる。その様子に若干苛立ちが募ったが、文句を言う気力は残っていなかった。  そのまま数分間、唸りながら体調が戻るのを待った後、コウはようやくフェンスにもたれて立ち上がる。 「はぁ。ようやく立てた……」 「それは上々」  蒼月は軽く頷いたのち、真剣な面持ちでコウの方へと歩みを進める。 「先程も言ったが、お前は異形達にとっては美味い餌だ。昨夜の念影や先程の狐のように……お前を狙った異形が、これから幾度も現れるだろう。だが、それに比してお前は非力だ。彼らを祓う力も持たず、ただ逃げ回ることしか出来ない。その様子では、彼らに喰われて死ぬのも時間の問題だ」  そんなこと、言われなくても分かっていた。たった一人で異形達に追い詰められば、為す術もなく喰われてしまうということくらい。  無言で握った拳に力を込める。蒼月はそんなコウの正面に立ち、静かな眼差しを落とした。 「だが、それを地獄はよしとしない。閻魔帳に書かれたお前の本来の寿命が、異形に喰われることによって歪められてしまうからだ。故に私が、お前を守る為に送り込まれた」 「……!」  蒼月が静かに手を伸ばし、コウの右頬へと触れる。雪のように白い指先は、存外温かみを帯びていた。間近に漂う白梅の香りが、コウの心を解きほぐしていく。 「世渡コウ。これからは、私が奴らからお前を守ろう。その生が終わる日まで、私以外の何者も、お前に触れさせたりはしない」  深い蒼の瞳が静かにコウを見つめていた。そこに浮かんだ揺るぎない色は、どこか誓いにも似ている。

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