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2012年 夏……③

 カラオケタイムは、たいそう盛り上がった。竜平は、親世代である1980年代の邦楽に熟知しており、直人とは大いに意見が合った。すると松岡は、こんなことを言い出した。 「関根が初対面の奴とこんなに打ち解けてるとこって、初めて見たわ」 「そう……かな?」  確かに、竜平は話しやすかった。まるで、以前から知り合いだったかのようだった。 「俺も、関根さんと話すの楽しいですよ」  竜平は、にこにこしながら言った。 「今度は、関根さんの好きな歌を教えてくれません?」 「そうだな……。一番好きなのは、『最高のダンスをあなたに』かな」  すると竜平は、身を乗り出した。 「あ、あの曲! 俺も大好きです」  松岡も、知った様子でうなずいている。『最高のダンスをあなたに』は、1980年代に大ヒットした曲だ。明るいメロディと、アイドルが披露したキレのあるダンスが、爆発的な人気を得たのである。 「あのダンスも、好きなんだよな……、あ」  そこで直人は、思い出した。 「そういえば、竜平ってダンスやってたんだよな?」  そこへ、松岡の鋭い声が響いた。 「その話題は止せ」  松岡は、驚くほど険しい表情をしていた。

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