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2012年 夏……⑦
(『好き』って……)
いや勘違いするな、と直人は自分に言い聞かせた。これは、友人としての『好き』だ……。
「サンキュな」
わざと軽く言えば、竜平は顔をこわばらせた。
「関根さん、俺の気持ちわかってます? こういうことですよ?」
竜平が、カラオケの画面を指さす。流れていたのは、ラブソングだった。松岡の練習用に、入れておいたものである。直人は、真っ青になった。
(バレてたのか? 僕がゲイだって……?)
両親の顔が浮かぶ。ただでさえ、医学部に進まないことで落胆させたのだ。これ以上失望させるわけにはいかなかった。そのためには、誤魔化し通さねば……。
「悪いけど、僕は男には興味無いから」
声が上ずりそうになるのをこらえて告げれば、竜平はキッと目をつり上げた。
「へえ、そうは思えませんけど。関根さん、男性歌手が映ると、画面を食い入るように見てたじゃないですか。てっきり男性が好きなのかって、思ってましたけど?」
かあっと、顔が熱くなるのがわかった。
「そんなわけあるか。男なんか、まっぴらだよ!」
金を叩きつけて席を立てば、竜平は焦ったような顔をした。
「帰るんですか? 待ってください」
すがる竜平を、直人は振り払った。
「俺、あの振付練習したんです。『最高のダンスをあなたに』。……だから、お願いです。来週のこの時間、ここへ来てもらえませんか? 関根さんに見て欲しいんです……」
直人は返事をすること無く、部屋を走り出たのだった。
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