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2012年 夏……⑥

 竜平は、直人の不安を敏感に察知したようだった。 「……何だか今日、元気なくないですか?」 「受験のストレスだよ」  誤魔化すと、竜平は納得したようにうなずいた。 「医学部って、難しいですもんね」 「……実は、医学部は止めたんだ」  直人は、思い切って打ち明けた。最近直人は、医学部へ行く自信が無いと親に白状したのである。代わりに、医療系の大学へ進みたいと告げた。両親は驚いていたが、認めてくれた。こんな風に進路を変える勇気を出せたのは、竜平の影響だろう。 「そこへ行きたいってわけでもないんだけどな。ただ、少しでも親の希望に沿えればって思って」  弁解がましく言うと、竜平は意外な反応をした。 「いいじゃないですか。親御さんのことを思いやるって、偉いと思いますよ?」  はっと顔を上げれば、彼は驚くほど真剣な顔をしていた。 「関根さんて、いつもそうですよね。人のことを気遣ってばかりいる。松岡先輩の練習に付き合っている時だってそうだ……」  竜平は、じっと直人の目を見つめた。 「俺、関根さんのそういうとこ、好きです」

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