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2022年 春……①

(あれっきり、だったな……)  それから十年後。二十八歳になった直人は、一人暮らしのマンションで回想にふけっていた。  竜平が言った日時に、直人はカラオケ店へ行かなかった。それ以降も、ずっとだ。松岡には、もう練習には付き合えないと告げた。  その後進学した医療系の大学では、女性と付き合う努力をしたが、どうしても無理だった。とうとう自分をゲイだと認めたのは、二十歳の時だった。  その時直人は、勇気を出して松岡に、竜平の消息を尋ねた。すると何と、アメリカにいるという答が返ってきた。高校卒業後、本格的に演出を学ぶため、渡米したのだという。相変わらずの前向きさに感嘆しつつも、直人は激しくショックを受けた。虫のいい話だとわかっていたが、会いたかったのだ。でも、もはや叶わない夢だった……。 (僕にとってあれは、初恋であり、唯一の恋だった)  直人は、しみじみと振り返った。自分をゲイと認めて以降、直人は何人もの男性と付き合ったが、誰とも長続きしなかった。心のどこかに、竜平が住み着いていたからだ。恋人たちは察したらしく、自分から去って行った。 (それに竜平は、僕の人生を変えてくれた……)  現在直人は、理学療法士として病院で働いている。実にやり甲斐のある仕事だ。あの時医学部を諦めて正解だったと、直人は心から思っていた。  (――せめて、あの曲を聴こうか)  あれ以来直人は、『最高のダンスをあなたに』を聴かなくなった。だが今夜は、久しぶりに聴いてみたくなった。  スマホで、無料動画サイトを開く。検索すると、曲の映像はたくさんアップされていた。コメントも、たくさん付いている。そんな中、とあるコメントに、直人の目は留まった。 『思い出の曲です。十年前、好きな年上の人がいました。その人に見せたくて、一生懸命振付を練習した記憶があります……。結局見せられなかったけれど、今でも彼が好きです』  ぎゅん、と心臓をつかまれた気がした。おそるおそる、投稿主のユーザーネームを確認する。 (――R・K)

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