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第21話 キス

 一人で、しようとした。  どうしても、あの日と同じものが欲しくて、一人で。自分の指で。  ――っ、あっ。  ミツナの指は長くて、骨っぽくて、あんなに媚薬の熱で辛そうなのに、それでも中を柔らかく解そうと優しく撫でてくれた。こんなところ触るの嫌じゃなかったんだろうか。男の身体なんて触れて楽しいと思えたのだろうか。そんなことを考えながら、あの時の指を思い出して。あの時のミツナの指だと想像しながら。  前戯がとても気持ち良かった。  当たり前だけれど、たくさん経験があるんだろうなと思った。  男の俺があんなに感じるんだ。女性はたまらないだろ。  ミツナの舌に舐められると、そんなところ今まで意識もしたことがなかったのに、まるで女性のように身震いして感じてしまった。指で摘まれても切なくなるくらい。  けれど、自分の指じゃあんな甘い切なさはそこに滲み出てもくれなかった。  ミツナの指はもっと違ってた。  ミツナの舌はもっと気持ち良かった。  もっと、ゾクゾクした。  挿入は、抉じ開けられただけで震える程の快感だった。苦しいのに、その苦しさも嬉しさに変わる自分に戸惑った。もちろん、自分の指じゃ全く感じない快楽が繋がったところからトロトロに溢れてくる。  一人でしながら、あの一度を追いかけて思い出して、なぞろうとして。  そして、ふと思った。  キスはしなかったと。  それから、どんなキスをするんだろうと、そう思っていた。 「……ん、ン」  キスは――。 「ン、ん」  頭の芯が溶けてしまいそうなくらい気持ち良かった。 「ん……ン、ん」  キスが美味しいと初めて思った。 「はぁっ」  ミツナのキス。 「あっ……」  上手くて。 「んっ……ン」  蕩ける。 「ンっ……んぁっ」  一度離れた唇をじっと見つめていたら、またミツナが首を傾げて、深く深く舌を差し込んでくれる。舌を擦られて、下唇を噛まれて、唾液が溢れそうになるミツナの舌と戯れて。 「んんんんっ」  身体を壁に押し付けられたまま、磔にされるように両手も壁にミツナの手で押さえつけられて、身動きもできない格好で、脚の間にミツナの脚が割り込んできた。立っていられないくらい、ミツナのキスに感じていた俺は、脚の間にあるミツナの長い脚にさえ身体を震わせてしまう。 「ン、あっ……ふぁっ……」 「……勃ってる」  だって。 「あ、あ、あっ……ンンっ」 「っ」  また深い口付けをされながら、身体を密着させられて、反応しないわけがないだろ。 「あっ……ぁ……ン、ふっ」  角度を変えて、また舌に口の中を可愛がられて。 「ぁっ……ぁっ……あ」  ミツナの手に後頭部を抱えられながらのキスに夢中になってしゃぶりついていた。 「んんんんっ」  一人でした時に想像して妄想していたキスに溺れるようにしがみつきながら、しゃぶりついて、絡みついて。 「あっ……あ」  立っていられない。 「ン、ふっ……んんんんんんんっ、あっ……はっ」  知らなかった。 「あっ」  余韻に力が入らない。  キスだけでこんなふうになるなんて知らなかった。  キスだけで、達してた。 「……さっきの男に、媚薬でも盛られた?」 「な、ないっ」 「じゃあ、キスだけでイッたんだ?」  下着の中に手を入れられて、飛び跳ねてしまう。 「……っ! ダメだっ、ミツナの手が汚れる」  達した余韻にもたつく手で阻止しようとしたけれど、呆気なく捉えられて、両手をひとつに束ねるように壁に磔にされた。 「それは、あんたの方だ」 「え? あっ」  何が俺の方? なのだろうと、聞き返そうとしたけれど、ミツナの手に達したばかりのそれを扱かれて、濡れた音にも、快感にも、まるで魚みたいに、直に触られた刺激に身体がのたうち回る。 「悠壱?」 「あっ」  ゾクゾクって、勢いよく、快感が背中を駆け抜ける。きっと今、ひどい顔をしていると思う。できたら隠れたいのに、壁とミツナに挟まれて身動きひとつできない状態で、耳元で、ミツナが低い声で俺を呼ぶから。 「悠壱」 「あぁ、ダメ、だ……ミツナ」  弄られて、ミツナの手を濡らしながら拒む手に力はちっとも入らなくなってしまった。  ベッドに押し倒されて、半裸になった俺にミツナが覆い被さる。  それはまるで獣に襲われるような体勢で、ゾクゾクした。 「抱かれたかったんだ?」 「っ」  食われそうで。 「俺に」  ミツナを初めて見た、あの日に腹の奥底で生まれた渇望そのまま。 「それなら俺でいいじゃん」  あんなに綺麗なものの一部になれたら、どんな心地だろう。 「俺の代わりに誰でもいいから抱いて欲しかったならさ……」  そんな欲望。 「俺とすればいいじゃん」 「……ミツナ」 「俺と……」  一人でした時に欲しくて、思い出して、真似をした指が俺の唇をなぞった。口を開いてと指が促すままに開いて、歯にその指が押し当てられる。痕がつくくらいにするから、まるで獣みたいにその歯の食い込んだ痕をどうにか治そうと舐めてしゃぶりついた。舌を絡めて、指に何度も何度もしゃぶりついて。  その濡れた指が俺の身体を弄る。  乳首を撫でられて小さく声が溢れた。濡れた指でその胸にくっついた、小さな粒を押し潰されて。 「あぁっ」  気持ちいい。 「あ、あ、あ」  自分の舌で濡らしたミツナの指にいじられて、抓られて、そして、キュッと摘まれるとたまらなくて、背中を反らして喘いでしまう。  そして、その指に、半裸にされた身体をまさぐられ、一度達したはずのそこから滲んでいたカウパーを塗りつけられて、孔を。 「あぁっ」  撫でられると。 「悠壱」  ヒクつく孔を濡れた指で撫でられながら、耳に唇が触れるだけで、おかしくなる。 「あっ、あぁぁぁぁ」 「悠壱」  つぷ、と指が侵入してくる。あの日みたいに、侵入してきて。あの時みたいに名前を呼んでくれて、一人でする時に必死になぞっていたミツナに、甘ったるい声が溢れてしまった。

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