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第23話 ただの、男
「はぁぁぁぁ? ちょ、今更じゃね?」
「い、いーからっ」
正気に、というか、落ち着けば、落ち着くほど、顔から血の気が引いていく。そして、今、慌てて、布団の中に籠城している。
「だーかーら、今更じゃね?」
「……」
そう、今更だ。今更、気がついて怯えているんだ。
「だ、だって」
「…………」
「いーから、どうぞ、シャワー先に」
「だーから、一緒に入ろうつってんの」
「後で!」
「無理だろ。あんた、腰砕けになってんじゃん」
「だ、大丈夫」
だって、あの晩のセックスよりも気持ちよかったんだ。ずっとイッていた。頭の芯がふわふわして、真っ白になった。そのせいで、行為の後、ずっと腰は腑抜けたままだ。
「それに、イチャつきたい派なんだけど?」
「!」
そう、それが一番の問題なんだ。
それは今まで女性が相手の場合だろ? 俺は男で、行為自体はまぁそれなりに楽しむことができるかもしれない。実際、男同士の方がツボを心得ていて気持ちいいだとか、女性相手でもその、つまり、そっちの穴を使うのを好む人もいるって話には聞いたりもするから、だから、まだ行為だけなら男相手でも、大丈夫なのかもしれない。
でも、事後はちょっと違うだろ。
俺は男で、しかも、そういう……なんというか、魅力的……というか、男性であっても抱いてみたくなるようなそんなものはどこにも持っていない。
ただの、普通の男だ。
だから、イチャついても。
「あんたと」
楽しくないだろ?
「イチャつきたいんだっつうの」
「! ちょっ」
「重っ」
「! だ、だからっ」
「暴れんなよ。マジで重いんだから」
「なら、おろせっ」
暴れて落とされるのなら全然構わないけれど、でも、その時に少しでもよろけてミツナに怪我をさせるわけにはいかなくて。
「っ」
抱き上げられて、シャワールームに到着するまでの数歩、じっとしているしかなかった。
シャワールームにミツナの鼻歌が響いてる。
歌も上手なんだなと、その僅かな鼻歌でもわかる。
「……楽しそうだ」
「そりゃ、楽しいでしょ」
「なん、」
「悠壱とセックスしたんだから」
にっこりと微笑まれて、指先がチクっとした。今の笑顔は写真に収めたかったから。
「い、今までの、その女性とは……その、ただの男で」
「まぁね」
楽しいものでもないだろ。同じ男の裸なんて見て、見慣れてきたら、あれ? どうして、俺はこんな普通の男を抱いてるんだろう。どうしてこんな平凡な男を抱いて、楽しいと思うんだろうって、正気に戻ってしまうかもしれないだろ?
「楽しいよ」
「!」
とにかく早く身体を洗ってしまおうと、手を急いで動かした。その手を掴まれて、ミツナの方に振る向くように引っ張られる。
「真面目そうで、まともそうなあんたが、セックスの時に俺に夢中なの。すっげぇ、やらしい顔して」
浅ましい顔をしてると思う。欲しくて欲しくて、それは狂ってしまったんじゃないかと思うほどだから。
「優しそうな人がさ、俺に抱かれてる時、めちゃくちゃ喘いでんの」
男の喘ぎ声なんて萎えやしないか、と考える余裕もないほど、ミツナに夢中で。
「普通っぽいのにエロい身体でさ」
笑えるほど滑稽じゃないだろうか。
「めちゃくちゃ楽しいよ」
普通の男なのに、こんな綺麗な男を欲しがって、無我夢中でしゃぶりつく俺は、おかしくないだろうか。
「はっ……悠、壱」
「ン」
嬉しそうにペニスにしゃぶりつく俺は。
「やば……すげぇ……」
「ン……ん」
ミツナがそんな俺とシャワールームでセックスの残りを流しながら、そこを硬くしてくれることがたまらなく嬉しいんだ。
だから、その場でしゃがみ込んで、そそり勃つペニスに口付けた。
「はぁっ」
口いっぱいに頬張りながら、先端を舌で丁寧に拭って、くびれまでしっかりと舌で舐めて。
「悠壱っ」
はしたない音を立ててしゃぶりつく。ミツナがタイルに手をついて、自分の足元に跪き、フェラをする俺を見つめてることにすら煽られながら、舌で舐めた。ついさっきまで俺の中を抉じ開けてくれたペニスに。
「それとさ」
「ンっ」
「フェラしてる時の悠壱の顔」
「ン……」
「すげぇ、エロい」
「あっ」
「だから、楽しいよ」
立ち上がるようにその指先で促されて、言われるままに立ち上がると、そのままタイルに手をつくようにされる。その俺の手にミツナの手が重なる。女性の白く小さな手じゃない。それなりに大きくて、重ねても、ミツナの手の中に隠れることはできない俺の、男の手。
「悠壱とイチャつくの」
「あっ」
手を重ねながら、背中にピッタリとくっつくミツナの身体にまた期待が込み上げてきて。
「あぁぁあ!」
挿入の瞬間に背中を反らせて天井に向けて甘い声を上げた。
「あ、あ、あ」
「めちゃくちゃ、楽しい」
「あぁぁぁぁっ」
激しく突かれて。
「悠壱っ」
バスルームで、シャワーの水音じゃ誤魔化せそうもない甘ったるい俺の喘ぎ声と、孔がしゃぶりつくセックス の音が響く。
そして、立ったまま激しいセックスに溺れる俺の指先がミツナの指先を握った。ほんの少しだけミツナの長い指をしっかりと捕まえる。激しさを増すミツナの熱に溺れて、しがみついて、強く、強く、握り締めた。
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