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第35話 耽る
ひとりでしたことはなかった。あの中途半端にいじった一回だけ。それ以降は、いつもミツナに抱いてもらっていたから。だから、したことはなかった。
とても、はしたない。
痴態だ。
四つん這いになって夢中で指をそこに挿れて、かき混ぜて。
たまに乳首を抓ると、孔が指を切なげに締め付けてた。
いつも、ミツナがその度に気持ちいいって囁いて目を細めてくれるのを思い出しながら。こんなふうにミツナにしゃぶりついてたのかって。
「撮影終わってさ、すぐに飛行機乗って帰ってきたんだ。マネージャーがまたかって顔してた。俺、我儘だから。退屈って言ってさ、こんなとこつまんねぇって言って帰ってきたんだ」
主が不在の寝室で、留守番を任されていたくせに、一人遊びに夢中だなんて。
「実際、退屈だったし」
帰ってきたことに気がつかなかったなんて。
「途中で電話したんだ。あんたが自分んちに帰ってたら、そっちに行こうと思ってさ、けど……」
自分のではないベッドで、自分のではない服を握りしめて、夢中になって名前を呼んでた。自分の指でミツナが変えたこの身体を慰めてた。
「ちゃんとここにいてくれた」
「あっ……ン……あぁ」
見られてる。とても恥ずかしい姿を。
「あ、あ、あっ……ン」
でも、それよりも興奮の方が勝っていた。ミツナの冷え切った指に。この時間にここにいてくれることに。さっき、電話をした時、電源を切っていた本当の理由に。
急いで帰ってきてくれた。あんなに冷えた指先で、手袋もせずに。明日の帰宅にすればゆっくりできたはずなのに、その方が断然楽なのに、慌ただしい日帰りをしてまでひとりで飛行機に乗ってまで。
「気持ちいい?」
「あっ……」
嬉しくて、ミツナの方へ身体を向けながら、自分の指でそこをいつもミツナにしてもらっているように孔をいじりながら、もう片方の手でその孔を広げて見せた。
「やらしい……」
「あぁっ、ン……ん」
ミツナはそんなはしたない俺を離れたところから眺めてた。寝室のドアのところに背を預けるようにしながら。遠くから鑑賞されている。帰ってきて、服を着替えることもなく、コートを着たまま、服を少しも乱していいないミツナに。
「もっと奥だよ」
半裸になって、夢中で自慰に耽る姿を。
「指、ちゃんと挿れて」
「あぁっ」
「そしたら届くでしょ?」
「あ、あ、あ」
ミツナの冷たい手が手に重なった。氷みたいに冷たい手が火照りきった手に重なると、その冷たさすら気持ち良くて。
「あぁっ」
「ね? 届いた」
ミツナの手。
「そしたらそこ、押してみて、押しながら撫でるの」
「あ、あぁっ」
「気持ちいい?」
もっと触れたい。
「ここが悠壱のいいところ」
もっと。
「覚えた?」
頷くと、目を細めて笑って、高く突き出すように腰をあげてる俺の尻にキスをひとつくれた。
「あ、ミツナ」
「ダメ」
「ン」
手を伸ばそうと指をそこから抜こうとしたら止められた。
「このままイクとこまで見せてよ」
「あぁっ……」
そして冷たい手に指を中へと押し戻される。
「ひとりでして気持ち良くなってるとこ、見せて?」
「あぁ……ン」
「見たい」
「あ、あ、あ」
「ね? 悠壱」
「あぁンっ」
すぐそこで観察されて、ひどく興奮した。見られてることに、教わった快楽をそのまま真似ている自分を、あんなに戸惑っていたはずの自慰に溺れる姿を。
「あ、あっ」
「……」
射抜くような視線にイきそうになる。
「あぁっ、あ、中っ」
「乳首もいじってみて」
「あっ、やぁっ」
「中、すごくなった?」
言い当てられて、自分の指に絡みつく自分の身体に興奮した。
「気持ちいい? 悠壱の中」
「あ、あ、あ」
「最高でしょ?」
「あっ、あ」
褒められた身体に、孔を夢中になって愛撫する俺の指に、ミツナの唇が触れた瞬間。
「あ、あぁぁぁぁあっ」
達してた。
ビュクっと弾けた瞬間、頭の中が真っ白になるほどの快楽に浸って。
「あっ……」
中がきゅぅんって。
「あ、ミツナ」
「……」
「イッタ、から」
ミツナが欲しいって。
「だから」
手を伸ばすとミツナが手を繋いでくれた。さっきあんなに、氷でも握りしめているみたいに冷え切っていた手はもう温かかった。それが、俺の痴態に興奮してくれていたってことなのかもしれないと思えて、ゾクゾクした。
「俺、帰ってきたばっかで、シャワー浴びてないよ」
「い、い」
喉奥が熱くて、口の中が勝手に潤んでいく。
「そのままが、い」
「……」
「ミツナの」
シーツも、服も全部洗ってしまったから。
「匂い……」
「ど、したの? 今日の悠壱」
手を伸ばして、ミツナのズボンのベルトを緩めると、もうすでに硬くなってくれていたペニスにしゃぶりついた。
「やらしすぎ……っ」
「ン……ン、ク」
「っ、悠壱」
舌を絡めて、唇で扱きながら、何度も何度も頭を上下させて貪った。
「口の中、トロットロ」
だって。
「ね、悠壱」
「ン、んく……ン、ん」
「美味しい?」
だってすごく。
「……おい……ひ……よ」
欲しくてたまらなかったから。顔を埋めて、その熱の塊に丁寧に舌を這わせて、キスをしながら、コクンと頷いた。
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