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第76話 幸せな

 俺から見える実紘を見たいって言ってたけど。  そんなの写真でいくらでも撮って見せるよって思ったけど。 「あ、あ、あの、あの、これはちょっとっ」 「いいっつったじゃん」  全部見せてよって言われたけど。 「そう言ったけどっ」 「うん、つったじゃん」 「そう、なんだけど!」  いくらでもって思ったけど。 「じゃ、見せて」 「あ、あ、あ、あ、あの、それとこれとは……あの」  ジリジリと、まるで獣のように四つん這いで近づいてくる実紘から、ジリジリと、あまり急いで動いたらそのまま組み敷かれて食べられかねないとゆっくり逃げている。  だって、見せるとは言ったけれど、それは表情の話だ。まさか、その、そういうことをしている時の表情を撮るなんて思ってなくて。さっき頷いたのはそんなつもりじゃなかったんだ。寝室に行こうと言われて素直については来たけれど、じゃあ、写真に撮って見せるのは明日以降のことなのかな、って思ったんだけど。  でも、だってそれって、つまりは、ハメ……。 「やーだ、見せてつった」 「だ、だから」  だからそんな楽しそうに服を脱がれても。 「いいっつった!」  だから、そんな俺の好きな顔で見つめられても。 「これは、そのっ、ン……ん」  上を脱いだ実紘がベッドで狼狽える俺を捕まえて、抗おうとする手を掴んで、そのまま。 「ン……ん、ン」  齧り付くようにキスをする。呼吸ごと食べられるように舌を絡められて、濡れた音と甘ったるい鼻にかかった小さな喘ぎ声が重なった唇の隙間から溢れていく。 「ン……」  離れると、糸が繋がってしまうような甘くて濃厚なキス。 「見せてよ。見てみたいんだ」  そして、実紘が本物の獣のように首を傾げて俺のうなじに顔を埋める。くすぐったがりな俺の弱いところに唇で触れて。 「あっ、はぁ……」  ゾクゾクするくらいに感じてしまう。 「いっつも、あんたを抱く時、すげぇ気持ち良さそうにうっとりした顔してんの」 「あ、実紘、ぁ……」 「その時の悠壱の中さ、トロットロで……」 「あ……ン」  首筋弱いんだ。 「あったかくて、気持ちいーの」  蕩けてしまう。 「セックスしててさ、幸せって思えたの初めてなんだ」 「っ、ン」 「あんたの中にいるとすげぇ気持ち良くて、幸せって感じる。きっとあんたが俺をすごい好きでいてくれるから、でしょ?」  行為を写真に撮るなんて、ダメなのに。 「ね、見せてよ。あんたが中をあんなに気持ち良くしてくれるくらい好きな俺ってさ、どんななのかなぁって」  そんなの、今、ここにいる。 「知りたいんだ。見せて? 悠壱の中があんなになるくらい好かれてる俺がどんななのか」  今、目の前にいる。 「あんたをあんなにトロットロにさせる俺って、どんななのか」  今。 「見たいんだ」  ほら、手を伸ばして引き寄せたらキスができた、この腕の中、その実紘がいる。 「ン……ん」  ペニスにしゃぶりつく喉奥が熱くなる。 「ね、悠壱ってさ、フェラしたことあんの?」 「ン、んんん」 「ないの? いっつも思ってた。なんでこんなに上手なの?」 「ン……上手?」 「すげぇ。即イキそう」  唇を離すと実紘が俺の髪をかき上げて顔を覗き込んだ。 「よかった」  気持ちいいと言ってもらえて、そのペニスに優しく口付けた。あやすように、唇だけで撫でて先端の小さな口のところに唇をつけて、丁寧に啜ってから、くるりとその先端を舌で舐める。 「それ」 「ンっ」  ベッドの上で寛ぐ実紘の足の間に陣取って、丁寧にその熱に奉仕をしているところ。 「悠壱の舌、気持ちいー」 「ン」  ペニスと舌の間に実紘の指が割り込んだ。しゃぶり続けて柔らかくふやけて濡れた舌のざらつくところを撫でてくれる。撫でられて、その指にもペニスの時と同じようにしゃぶりつくと、実紘が目を細めて息を喉奥で止めた。 「すげ……」 「ン……はぁ……あ」  濡れた指が乳首を摘んでくれた。 「あっ、ン」  優しく摘まれると堪らなくて、切ない声が溢れてしまう。 「あ、あ、上手なのは」 「……」 「実紘の身体だから、だよ」  丁寧に舌を這わせて、丁寧にしゃぶりつく。 「触れてるだけで、興奮する」  舌でも指先でも、実紘に触れて、舐めて、しゃぶりつきたくなる。 「っ、悠壱」 「ン、あっ」 「あんま、そんな美味そうにしないでよ」  そんなの無理だ。 「だって……ン、ん……」  すごく、美味しい。 「もう、本当さ……」 「あっ」 「どんだけ、あんたって俺のこと好きなの」 「……すごく」  すごく好きなんだ。ずっと追いかけていた。手が届くことはないと分かっていてもそれでもほんの少しでも可能性があるかもしれないとか少女みたいに追いかけて胸をときめかせてたくらい。 「すごく……だよ」  それはまるで初恋のように。 「どこが?」 「かっこいい」 「へぇ、そう?」 「そう、笑った顔とか最高で」 「そうかぁ?」 「あ、今の照れ臭そうな顔もすごく」 「……ありがと」  写真の中に愛しい君に、甘い溜め息を溢して見惚れてる、憧れにも似た恋のように。 「でも、今のも好き」 「……」 「ゾクゾクする」 「そう?」  キスをくれる瞬間の、目を細めた表情。 「あ、ほら」 「……」 「好き」  今の表情を撮りたい。  そして、シャッターを切る音が部屋に響いた。 「すごく……」 「悠壱」 「ぁ……」 「ね、あとで見せて。あんたが大事にしてる俺のこと」  そう、とても大事なんだ。すごく大切にしてる。 「ぅ……ん。あとで、見せてあげる」  俺を抱いてくれる時の実紘を、とても気に入っている――。

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