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初旅行編 2 俺のもの

「……それに」  誰もいない廊下では俺の声も良く響いてた。  今はその廊下を少し歩いたところにある実紘の控室へと戻ってきた。広い控室を宛がってもらえてるのは、専属カメラマンが常に同行しているから、とかじゃない。モデルミツナの名前のおかげだ。 「それに? 何? なんで笑ってんの?」  そんな人気トップモデルが口をへの字に曲げて怒ってる。 「悠壱っ?」  そりゃ、笑うだろ。自分の気持ちがくすぐったくて仕方がなくて。  実紘が俺をかまうバーナードに腹を立ててくれていた時、俺はそんな実紘を欲しそうに見つめるあの女性モデルに妬いてたんだから。二人して、ただ自分以外の人間がその隣にいることにヤキモチをしてるなんて、甘ったるいのを通り越しておかしくて笑ってしまう。 「悠、っ……っ」  そうとも知らず、真っ直ぐに独占欲をぶつけてくれるのもまたとても嬉しくて。もしも神様がいるのなら渾身の出来だと自負していそうな整ったその顔を両手で包み、そっとキスをした。 「……ン、ちょっ、実、紘っ」  そっと触れるだけのキスで我慢するつもりだったんだ。  ここは職場だし。控室なわけだから、深いのは……なのに。 「ン……」  俺の腰を引き寄せて、覆い被さるようにその長身の身体を密着させた実紘が舌を挿れるから。 「あっ……ダメ、だって」 「無理。ここんとこ、忙しくて付けてないから、これだけ付けさせて」 「は?」  そう、最近、といっても一週間程度だけれど、実紘が忙しくて、その……してないんだ。明日からの旅行のためにって実紘も仕事をすごく張り切っていて。  だから、今は付いてない。 「ひ、あっ」  キスマーク。 「あっ……ン」  その触れられることが久しぶりな肌じゃ歯が食い込むだけでイッてしまいそうなほどゾクゾクした。普段なら俺だって仕事があるから大丈夫。四六時中発情してるわけない。でも、触れられたら、ダメなんだ。  その途端に、ダメになる。  撮影現場の控室なんて場所には似つかわしくない声が自然と零れ落ちて、不謹慎なその声は廊下でもないのにやたらと響いている気さえしてくる。 「ンっ」  背中を仰け反らせてるから、まるでダンスを踊っている女性のように実紘の腕にしがみついて。  背けてるはずなのに、「噛んで」と自分から敏感なうなじを晒しているような気分もしてくる。 「ひ、ぅっ……ン」  気持ち良くて、溶けていってしまいそう。 「あ、も……付いた、ってば」  早く、止めてと、離れてくれと、ちらりと視線を送った。もう実紘のものっていう印ならちゃんとついたからって。 「実……ぁ」 「やば……その顔」 「あ、ちょっ、待っ、ここ」  けれど、実紘は離れるどころか、もう一度首筋にキスをしながら、もっと身体を密着させた。  溶ける。  理性も。  それから。 「あっ、実っ」  触れられたところ全部。 「実紘、も、ほらっ」 「やだね」  拒絶からは程遠い、勝手に意思でも持っているみたいに愛しい実紘に掴まる指先が快感に震えてる。 「っ」 「悠壱の、こんなじゃん」 「!」  撫でられただけで沸騰しそうだった。  それは立っていられないほどで、思わずしがみついて抱きつくと、嬉しそうに実紘は綺麗な顔で微笑むと舌を絡ませるキスをする。そして長く綺麗な指を滑り込ませて俺の下着の中をまさぐる。 「ン、ぁ……」  ぶるっと震えるほど気持ち良かった。 「あ、あ、あ、あ」 「……悠壱」 「っ……んんんんっ」  今、誰かが入ってきたら……。 「腰揺れてるよ?」 「あ、はぁっ……ダメだって、離しっ」 「やだってば。最後まではしないから」 「あっ」  下着ごと、太腿までズボンを下ろされた不恰好なまま、実紘の手の感触に酔いしれてる。  最後まで、して欲しくてたまらなくなる。 「明日の旅行で続き、しようよ」 「あ、っ……実紘っ、じゃ、あっ」  実紘の熱を身体の奥で感じたくてたまらなくなる。 「してくれんの?」 「ん、だって」 「っ」  ずっと腰にあたっていた硬いものに手で触れた。 「っは、すげ、悠壱の手、気持ちい」 「あ、あ」 「やば……挿れたいっ」  俺も、挿れて欲しい。 「悠壱」  実紘のこれを俺の中に。 「ね、悠壱、擦り付け合おうよ」 「あっ、あぁっ」 「はっ、すげ……これヤバ」  挿れて、奥までいっぱい。 「も、いきそ……早っ」 「ん、ぁ、俺もっ」  いっぱいにして。 「実紘っ、キス」 「ん」 「ン、んっ……ぁ……ン……んん」  めちゃくちゃに掻き混ぜて。たくさんして欲しい。 「んんんんっ!」  キスをしながら、二人で一緒に達してた。互いの手を、指を絡ませ合いながら、擦り付け合って。手を濡らしながらキスで舌も濡らして。 「はっ、ぁ……」 「悠壱」 「……ぁ」  まだ続きを……そう願いそうになる俺の首筋に実紘が優しく口付けた。 「俺のもの」 「あっ」  ただ、その言葉一つで、ほら。 「そんな可愛い顔しないでよ。このまま、襲いたくなるじゃん」  また達してしまいそうなくらい、奥が切なくなっていた。 「なぁ、ミツナ、逆効果だと思うぞ」 「あ?」  カメラを女性モデルに向けるバーナードのアシスタントを今日は臨時で務めている俺はその問いかけに顔を上げた。俺の隣には、人気モデルのミツナが久しぶりに粗暴な態度で立っている。 「俺を牽制したいんだろ? なら、悠壱が色っぽくなってたら、逆効果だろう?」 「はぁ?」 「あははは」  そう言って、一流カメラマンはカメラから視線は外すことなく派手に大笑いをしていた。

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