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二人で媚薬編 10 甘いキス

「ただいまぁ、はぁ……撮影とかマジで疲れた。ホント、頭悪いからこういう時困るね。セルフ覚えるので必死でさぁ。途中、カメラテストとかで自分が写ってるとことか見るのがマジで最悪だった。下手くそ」  実紘がそうこの二日間を振り返りながら、玄関で靴を揃えて、廊下を進んで、リビングの照明をつける。まずはリビング全体の明かり。それからキッチンカウンターのところ、テーブル付近のスポット照明を照らしてから、キッチンの明かりもつけて、冷蔵庫を開けるとペットボトルの水を開けた。  ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲む度に喉仏が上下するのを眺めていると、水が欲しいと思ったのか、実紘が開けていないペットボトルを冷蔵庫から俺に差し出してくれた。  けれど、俺は首を横に振って、実紘の飲みかけをもらって。それをまた実紘に手渡すと、綺麗に微笑んでくれる。それから、撮影の衣装着てきちゃったと小さく呟き、そのコートを脱ぐと、寝室へと進んでいく。  実紘が部屋の中、明かりを灯しながら歩いていくと、まるで部屋の中の空気さえ変わる気がした。パッと明るくなって、息づくような。 「でも、また演技の話が来たら頑張るよ」 「あぁ」 「そうだ、この前さ、広告塔になった企業がさ、また」 「今日、大学行く時も、その前、動物園の撮影のことで打ち合わせに出かけた時も、ミツナの広告をたくさん見かけた」 「マジで? けど、まだまだでしょ。今日の演技も全然だし。でも、そんでさ、演技もできるようになったら、少しは」 「これ、さっき、あの女性にもらった」  ――ミツナのパートナーさんが素直になれる、魔法のお薬。  さっきは出しそびれた、それを袋から出して見せた。 「は?」 「媚薬、らしい」 「はぁぁ?」  出しそびれたんじゃない。言ったら、これ捨てちゃうだろ?  ――甘くて美味しいよ?  だから、教えなかったんだ。 「あいつっ、そんなもん」  試してみたいなって、思ったから。 「た、めしてみたい……なんて」 「……は?」 「これ、試してみたい」 「は? なんで? そんなの」 「ダメ?」 「……興味あるの?」  首をただ黙って横に振った。  別に興奮したいとかじゃない。これを使ってするセックスに興味があったわけでもない。 「それ、前に俺が盛られたの、覚えてない? あんたに」 「覚えてるよ」  彼女が言うように素直に何か、今思っていることを打ち明けたいのでもない。実紘が頑張ってるのを邪魔したいわけじゃないんだ。  ただ。 「覚えてる」  ただ、しょうのない、滑稽なくらいに、はしたなく実紘を欲しがってる自分を見せたい。本当は媚薬なんて使わなくても、媚薬なしでも十分に貪欲で、浅ましいって笑われそうなくらいに欲しくて仕方がないんだ。その俺を曝け出してみたいだけ。  そこに媚薬のせいって言い訳をくっつけて、あとあと、実紘が溜め息をついたら誤魔化そうって、そう思った。 「いいけど、知らないよ?」 「?」  実紘が撮影用の衣装、借り物の黒のニットを脱いで、その足元に置いた。引き締まった上半身は、見惚れるほどの造形美で。 「俺、あんたが思ってる以上に欲しがりなのに」  後ろに流していた髪をくしゃくしゃに掻き乱す指、手は骨っぽく、色気がある。 「ね、それ、俺にも一緒に飲ませてよ」 「! それはっ」 「それならいーよ。俺も、一緒にそれ飲むならいいよ。試しても」 「……そんな」 「へぇ、それカプセル? 俺、あの時は酒の混ぜられたからさ、それ自体は見てないんだよね。粉とか、なんか瓶に入った液体みたいなの想像してた。貸して?」  その手が目の前に差し出されて、媚薬とやらをその手に乗せた。 「あ、柔らかい。ほら。なんか意外。歯で潰せそう」  実紘はパッケージを割って、中にあった青い粒を指で摘んで、その感触を目の前で見せてくれる。押すと楕円だったそれは少し潰れて、弾力性のあるゼリーやグミのように見えた。 「悠壱が歯で咥えて」 「……ん」  指が俺の唇を撫でて、キスを誘うように開かせる。歯の切先に実紘の指の柔らかいところが触れて、少し強く押されると、歯で彼の綺麗な指を傷つけてしまいそうで、勝手に口が開いていく。 「……ン」  ゾクゾク、する。 「一緒に食べようよ。グミ、みたいなのかな」 「あ」 「咥えてて」  口を開けたままだから唾液で実紘の指を濡らしてしまう。この指に身体の奥まで暴かれてるのに、口の粘膜を撫でられただけで、戸惑うくらいに興奮した。気恥ずかしさすら、快感になるくらい。 「悠壱」 「ん」  もう媚薬の効果が回ってるみたいに、身体が火照る。 「……ン」 「……」  歯で押し潰すと。  プチン、と小さく弾ける音がした。 「……ん、っ」  そして、中からとろりと甘い甘いシロップのような液体が流れ出して、そのまま深く濃厚なキスで絡まり合う舌にまとわりつく。  唾液と混ざった青い粒の中身が舌を伝って喉奥に流れ込んでいくのを感じた。キスはそのまま舌を弄り、角度を変えて何度も何度も、深く交わり合う。耳を手で塞がれて、舌の絡まる音が頭の中まで蕩けさせていく。 「ん、フ……は、ぁっ」  とろりと、体内に染み込んで。 「……あ」  実紘のキスに身体の奥がじわりと濡れたような気がした。

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