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第6話

 オメガと言えども七央は優秀だった。勉強も運動もオレより遥かに出来が良い。だからオレは必死に努力した。七央の側にずっといる為に、どんな努力も惜しまずやった。  ただし努力じゃどうにもならない物もある。  七央はオメガらしいオメガだ。歳を重ねる毎に磨きがかかり、美幼児から美少年、更に美男子に成長した。今じゃ誰もが振り返る美青年。本当に美しいのだ。  ところがオレはというと、元がベータの遺伝子だもの。そりゃあ見てくれも平々凡々。強いてオメガらしさを上げるならチビでひょろひょろなところだけ。七央の様な儚さもなければ可憐さもない。目が悪く野暮ったい黒縁の大きな眼鏡を常にかけ、髪は真っ黒の直毛で、鼻は低く唇も薄い。ちょっとそばかすのある顔はコンプレックスだし、低い鼻のせいで眼鏡はいつもずり落ち気味だ。  お陰でオレをオメガだと気付く者は殆どいない。たまぁーに、もしかして…と疑う者もいるが、そんな時は迷わず『ベータですが何か?』と振る舞う術を身に着けた。その方が都合がいい事が多いからだ。それにあれだ。その、オメガ特有のフェロモンとやらも、何故か出ていないらしい。だからなのか発情期ってやつも未だに未経験だし。うん。自分でもたまに思う。オレは本当にオメガなのかと。  こんなオメガらしさの欠片も無いオレは、いつも周りから七央の隣の引立て役と揶揄されてきた。不満はない。だって自分が一番分かってる。オレが隣にいるせいで、七央が損をするならともかく、オレの存在が更に七央を輝かせるならそれはオレにとっても本望だ。何しろオレ自身が七央に憧れている七央信者なのだから。ついでに言えば、うちの家族はみんな揃って七央大好き信者なのだ。七央がオレをぎゅっと抱き締めたあの瞬間から、うちの家族は七央に落ちた。今じゃ七央の事を神様かなにかだと信じて疑わない。  そんな天使か女神の様な可愛い七央からのお誘い…、もとい、お願いだ。  「お願い理央。僕一人じゃ心細いんだよ。 一緒に来て? ね、おねがぁい」  両手を顔の前で組み、小首を傾げて甘い声で「おねがぁい」なんて…。ズルいぞ七央! なんて可愛らしいんだよっ。  「りぃーおー。 ねぇ、ってばぁ」   「分かった。 勿論、一緒に行くよ」  こうしてオレは、久住七央の従者件引立て役として、パーティに参加する事になった。  今思えばこの時、絶対に無理だと断われば良かったんだ。そうしたらこんなにも、辛い気持ちにならなくて済んだのに…。つくづくオレは大馬鹿者だ。

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