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第12話
* *
「よっ! 理央」
今日も懲りずに七央参りにやって来た九条くんは、オレを見つけるなり親しげに声を掛けてくる。このくらいフランクに、七央にも声を掛けたらいいのに。
「あ、こんにちは」
「ん? …何だよ。なんか今日は余所余所しいな。 何かしたか?俺」
ううぅ…。普段ポンコツな癖に変なところで勘がいいな。こういうところはアルファっぽいんだから。
「ぅ、うう、ううん。 な、なな何でもない、よ?」
「………嘘だ。 理央、今焦ってるだろ」
しまった。焦りが吃りに出てしまった。
ついこの間七央から、九条くんにはもう会うなって言われてしまったから、こんな所見られたらと変な緊張感に吃ってしまった。
「なぁ、何だよ。 俺、お前に何かした? 分かんないのヤダよ。 嫌な事したんなら謝るから、言ってくれよ」
「してないよっ! 九条くんが謝る様な事なんて、何にもないよ。ホントだよ!」
ううぅ…、本当にごめん。謝らなきゃならないのは寧ろオレの方だ。
応援してる、なんて言ったくせに何の役にも立ててない。
「本当か? …なら、いいんだけど」
「うん! あの、ごめんね。オレ、感じ悪かったよね」
「何言ってんだ。お前が感じ悪かった事なんか一度もないぞ。 理央はいつでもいい奴だし、一緒にいて楽しいよ。だからさ、もし俺がお前を嫌な気分にさせる様な事があったら、遠慮なく怒っていいんだからな?」
う…。九条くんこそ、凄くいい人だよ。
お金持ちで地位も高くて、こんなにハンサムでおまけに上位アルファ…。普通ならもっとそういうの、鼻に掛けて嫌な奴になっててもおかしくないのに。いつだって気さくで飾ってなくて親切だ。
今だって…。オレの方が悪いのに、こんなに気遣いを見せてくれる。
「ありがとう九条くん。 オレね、七央以外でこんなに仲良くしてくれる人、初めてなんだ。 だから、とっても嬉しい」
そうなんだ。オレはいつでも七央の影だから、オレと仲良くしようなんて人はいなかった。そういう人は大抵、七央に媚びる為にオレを手懐けようとしているだけで、オレ自身を気遣ってくれたりはしない。
こんな風に、嫌なら怒れなんて、言われた事なかった。
ねぇ七央。九条くんは本当にいい人だよ。七央もたくさん彼と話をしたら、きっと分かると思うんだ。
だから、会っちゃダメなんて言わないでよ。オレ、九条くんとはもっと…ーーー
ーーーー……っ
「…理央? どうした?」
「ふぇっ!? ぁ、ああ、何でもないよ!」
何だろう…。今、チクリとされた訳でも無いのに、胸のところ変な感じがする。
擽ったいような…、むず痒いような…、それでいて苦しいみたいな……。
「な、なぁ、理央。 …何でだろう。 何か、お前から七央の匂いがーーー」
「え…?」
「理央っ!!」
「えっ、…ぅあっ」
突然背後から抱き寄せて来た七央に引っ張られて、よたよたと倒れそうになった。
「なっ、七央…」
「あ、ごめんね。ビックリしちゃった? 大丈夫?」
あれ? 七央って意外と力持ち?
一緒に倒れるかと思ったのに、七央はしっかりとオレを抱き留めてくれている。
「あ、ごご、ごめんねっ! 重いでしょ」
「あはは。理央は軽いから大丈夫だよ。何ならこのまま抱っこしてあげようか?」
「だっ、…もう。そんな事、七央にさせられる訳ないだろ」
確かに七央はオレより身長はあるけど、さすがに抱っこはない。それより、そろそろ離してはくれないだろうか。なんか、その、落ち着かない気分になっちゃう。
「な、七央? そろそろ離して…」
「なっ、七央さんっ! お、お久しぶりでございますっ! ご機嫌麗しゅうです!」
あ…。また変な敬語になってる。無理して丁寧に喋ろうとするからだぞ。
「ーーー何? 何か用?」
抱えてたオレをくるりと背後に隠した七央は、いつものお日様みたいな金色キラキラオーラから氷の様な銀色ギラギラオーラに変わった気がする。ちょっと怖い。
こらこら、七央!そんな塩対応してやるなよ。
「あぁ、その。用っ、ていうか。えっと」
「この際はっきり言っておくけど、僕はきみに何の興味も好意もないから。それと。 今後一切、理央にも近づかないで!」
「七央っ、」
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