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第13話
「…え? ーーーそれは断る」
「はぁ!?」
「へ?」
さっきまで憧れの七央を前に、しどろもどろのヘタレっぷりを発揮していた九条くんが、急にスンッと顔色を変えた。
何だろう、これ。ふ、二人共、ちょっと近寄り難いオーラが……。
「七央が俺を嫌いなのは分かったけど、理央に会うのを止める権利は無いだろ」
「勝手に僕の名前を呼び捨てにするなっ! それと、理央にちょっかい掛けるのもやめろっ」
「あ、あのっ、ちょっと…、」
「はぁ? 名前くらい別にいいだろっ。それに理央に会うのはやめないぞっ、このケチ!」
「や、あのっ、」
「ああっ!? もいっぺん言ってみろ、このポンコツアルファっ!」
「あー、何度でも言ってやるよっ! このケチオメガっ!」
「何だとっ!」
「何だよっ!」
「す、すとーーーっぷ!!」
何なんだこの二人はっ!
いきなり目の前で喧嘩してっ!
しかもここ、学校の正門だぞっ!
見てみろっ!衆人環視もいいところだっ、恥ずかしいっ!
「いい加減にしなよ、二人共。皆ビックリして見てるよ! 恥ずかしくないの?」
良家のご子息同士。しかもアルファVSオメガなんて聞いた事ないぞ。
「二人が仲良くしてくれるのは嬉しいけど、喧嘩は止めよ? オレ、こんなの嫌だよ…」
大好きな七央と九条くんが、仲良くなって欲しいとは思ってたけど、仲良しすっ飛ばして喧嘩ップルになるとは思ってもみなかった。
「理央…。ごめんね」
「理央…。悪かった」
七央と九条くんは、同じタイミングで同じセリフを吐いた事を忌々しそうに顔を背けて主張した。
「ふふ…。 二人共、凄くお似合いだと思うよ」
「「はぁ!?」」
ほら。息ぴったりだ。
こうして並んだところを見れば、これ以上ないくらいお似合いだよ。ーーーうん。 オレの入る隙間は無いな。
「ちゃんと仲直りしたら、また一緒にご飯にでも誘ってよ」
「理央っ、何処行くの?僕も行くよ!」
「おい、理央! ちょっと待てよ」
「やーだよ! 仲直りしたらって、言っただろ! 着いてくんなっ!」
もやもやする。二人がお似合い過ぎて、見てると何だか逃げたくなった。
走って走って、息が切れるまで走った。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、 は、ははは」
嫌なだなぁ…。オレきっと寂しいんだ。
あんなに二人がくっつけばいいのに、って思ってたのに。いざ並んだ姿を見たら、お似合い過ぎて、オレの居場所なんかなくなった。
「嫌なヤツだな、オレ」
小さい頃からずっと一緒だった七央。
おまけの日陰者に親切にしてくれた九条くん。
「オレ、どうしよう」
二人が番になったら、俺の事なんかもう見てもくれなくなっちゃうのかも。そりゃそうか。そうだよな。オレ…、お邪魔虫だ。
「寂しいなぁ…」
考えただけで胸が締め付けられる。ずり落ちていた眼鏡を外してグイッと目許を拭った。
おいっ、理央!しっかりしろっ!
お前は七央の幸せ守り隊だぞっ!
九条くん応援し隊にもなっただろっ!
「うん。寂しいのなんかに負けないぞ!」
その内いつかオレにだってオメガらしく発情期ってやつが来て、そんで二人に負けないくらいのお似合いなアルファに番にして貰うんだ!
もし、お似合いなアルファが見つからなかったら、その時は七央と九条くんの赤ちゃんのお世話係として、雇って貰えるよう頼んでみよう。
「そうか。そしたらずっと、二人と一緒にいられるかもしれないな」
なら、やっぱり発情期なんて来なくていいや。番なんかいらないし一生独身でも構わない。
オレは七央と九条くん、二人の幸せ応援し隊になればいいんだ。
「なぁんだ。寂しい事なんて、ないじゃないか…」
そう口に出して言ってみた。
いつも気持ちが後ろ向きになった時は、こんな事何でもない、きっとこれからいい事がある、そう言葉に出して気持ちを切り替えてきた。
「これからもきっと、二人と仲良くしてられるんだぞ! くよくよするなっ」
口に出した言葉とは裏腹に、何時までも気持ちは晴れないままだった。
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