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第14話

 ****  学校の正門前での喧嘩から一週間。  「ーーえ? また来てないの?」  あれから七央が学校を休んでる。どうしたんだろう…。  あの後何となく気まずくて、3日程連絡をしないまま過ごした。学校に行ったら嫌でも会っちゃうから、仮病を使って休んでしまった。4日経ってさすがに勉強の遅れが気になってビクビクしながら学校へやって来た。…が、オレがズル休みをしている間、七央も学校を休んでいると聞かされた。もしかしたらヒート休暇かな。    七央の発情期は高校2年生の時に始まった。  突然半月近く学校を休んで周囲をヒヤヒヤさせたのだ。何しろあの美貌だもの。もしやまさかと学校中が噂した。  けれども久々に登校してきた時はいつも通りの可憐な姿だったし、首の後ろも綺麗なもんだった。そんな七央に周りの皆はホッと胸を撫で下ろしたんだ。  だけどオレはちょっと違った。何となく、七央の雰囲気が変わった様な気がした。纏ってる空気が全然違うのだ。それから匂いも変わった。それまで七央からは甘いミルクの様な匂いがしていたのに、その時を境にすずらんの花の香りに変わった。それもどことなく七央からしているというよりは、彼に纏わり付いて包む様に香るのだ。  『七央、何があったのか本当の事を教えて』  そう聞いたオレに、七央は事も無げに『発情期が来ただけだよ』とケロッと言った。  その時の七央の顔は可愛いっていうより、どこか悩ましげで少し寂しそうで、それでいてとても綺麗だった。  だからオレは、七央は大人になったんだと納得したんだ。  それ以来七央は三ヶ月ごとに一週間程ヒート休暇を取る。オメガだもの。それは当たり前の事なんだけど、その度に七央がどんどん大人になっちゃうようでオレは少し寂しかった。  今回もたまたまタイミング悪くヒート期間に入ったんだろうな。  七央のヒート期間中は連絡しても繋がらない。これは最初からずっと変わらないから、今回もきっとどんなに会いたくても無理だろう。大人しく待つしかない。もしその間に九条くんが訪ねて来たら、教えてあげた方がいいのかな? いや、止めよう。あの七央大好きっ子みたいな九条くんには刺激が強過ぎるかもしれない。急に鼻血でも出されたらオレが困る。  「なんかホントに、鼻血吹きそうだよね」  思い付いた考えにクスクスと笑いがこみ上げた。  真っ赤な顔して慌てふためく姿が目に浮かぶ。  どうしてそんな事教えたんだよっ、とか文句を言われそうだ。何だか可愛いぞ。ホントに教えちゃおうかな。  いつも外見を裏切るヘタレっぷりを想像したら、どうしてかとても九条くんに会いたくなった。だいたい5日と開けずに七央参りに来てたから、今日辺りそろそろ来てもおかしくないな。早く来ないかな、九条くん。  けれどあの日以来、九条くんはオレの前に姿を見せなくなった。それと七央にも、あの日から一度も会えてない。  胸がざわざわして、落ち着かなかった。

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