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第20話
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医学の進歩とは目覚ましいものだ。
それにオレは薬のよく効く体質らしい。秋さんにおすすめされた抑制剤も頗る調子がいいし。
はぁ…。あの悶々としたヒートから開放されて良かった。
2日の措置入院が終わり、それから4日間の自宅療養をしてからオレは学校に復帰した。
「理央っ! もう、大丈夫なの?」
七央はあれから何度か家を訪ねてくれたけど、オレは会うのを断っていた。何故か家族もその方がいいと承諾してくれて、決して七央を部屋には通さずにいてくれた。だから今日、3週間振りにこうして顔を合わせてる。
「うん。 もう、すっかり元通りだよ。ごめんね、心配かけて」
「ううん。 でも良かった。理央が親切な人に助けられて。 僕こそごめんね。せっかく会いに来てくれたのに留守にしちゃってて」
あ、そうだった。七央はあの日、九条家に招かれて出掛けていたんだっけ。
「そんなの気にしないで。 それより、七央。オレに何か報告する事ないのかな?」
「報告? …どうしてそんな事聞くの?」
まだ隠す気なのかな? もう、早く教えて欲しいのに。
発情期の間ずっと七央と九条くんの事を考えた。どうせ何を考えても結局最後はこの問題に行き着くなら、とことん考えて自分なりの答えをみつけよう。そう思って過ごした。
そうしてみつけた答はこうだ。
「あのね、七央。オレこの一週間凄くたくさん考えたんだ」
「うん? 何を?」
聞いてくれる?
「オレは七央が大好き!」
「本当? ふふ、嬉しい。ありがと理央」
うん。もうこれは絶対揺るがない!オレの世界はずっと七央だったし、それはこれからも変わらないんだ。
「それからオレ。 九条くんも、好き」
「……そう。 そっか」
これもしょうがないよ。だってあの日嫌って程思い知った。翌日看護師さんがびっくりする程泣き腫らした顔は、自分でもドン引きものだった。
「だから。大好きな七央と九条くんが、番になってくれたらオレ嬉しい」
「は、はぁ?」
うん。そうなんだ。結局それが一番しっくりくるんだ。大好きな人達が幸せになるんだもん。そんなの喜びしかないじゃないか。
「でも仲間外れは嫌だよ?」
「ち、ちょっと待って理央。それ、」
「オレね。いい薬教えて貰ったの。ヒートの抑制剤。このままずっと発情期なんか来なくていいし番もいらない。だから、七央と九条くんが番になって結婚したら、二人の赤ちゃんのお世話係になりたいです!」
そう。オレはどうしたって二人と一緒にいたいんだ。それにはこれが一番いいと思った。もうこれしか方法が見付からない。
「り、理央っ! だからちょっと待って!何、それ。 どうして僕とアイツが番なんかになると思ってるのっ!?」
「え…。どうして、って。 だって七央。この前九条家にお呼ばれしたんでしょ?」
七央のヒートの直前まで顔を合わせていた二人。その期間明けに九条家からの招待。
それは正式な婚約とか、そういう事を話し合って来たんじゃないの?
「確かに九条家には行ったよ。でもそれは別の用事で、あのポンコツなんかに会いに行った訳じゃないよ」
「…え。 そ、そうなの?」
「もぅ…。心臓に悪い事言わないでよ。僕は何がどう間違えても、あのアルファと番なんかにならないし、なれる訳も無いんだよ」
「え…っと。 そ、それじゃ…」
あれあれ? も、もしかして、オレはまた飛んだ誤解をしていたのか?
「それから理央。 お前に話さなきゃならない事があるんだ。 落ち着いて聞いて欲しいんだけど、実はね…ーーー」
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