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第23話

 「く、…九条くん」  「何だよ理央。俺の誕生日、祝いに来てくれたんじゃなかったのかよ。黙って帰るなんて酷いぞ」  どうして? 何で九条くんがここに?  出口だと思って目印にしてたあの石像。もしかしてあれ、九条くんだった!?  裸眼で見たから分からなかった。  「ああ、あああっ、あああの、っ、そ、そそ、そっ、」  やだやだ、どうしてこんな時に吃音になっちゃうんだよっ! 恥ずかしい…。ちゃんと話も出来ないなんて。  「あー、ごめん! 理央、落ち着こう。な? 焦んなくていいんだから」  「あう、あっ、ごめ、ごご、ごめ、っ、んん…」  ホントにっもお! ちゃんと喋れよオレっ!  「…、………っ、ぅぅ、うぅぅ…」  「わ、ぅわっ! な、泣くな、なぁ? 理央、ね? 泣かないでよ。ごめん、てば」  ごめんね、九条くん。ごめんなさい。でもでも、言葉が出なくて、ちゃんと喋りたいのにダメなんだ。こんなに酷い吃音は久々で、オレもどうしたらいいのか分からないんだもん。  「理央、ね? 泣かないで? 今日来てくれて嬉しいよ、俺。 理央に来て欲しかったんだ」  どうして? オレなんか来てもちっともいい事なんかないよ? プレゼントも用意出来てないし、服だって大学の入学式で着た吊るしの安物スーツだし。  「無理に喋らなくていいから聞いて? 俺、ずっと理央の事考えてた」  「ぁう、うぅぅ…、うう」  「だから、無理に喋んなって。 ね、聞いてよ。 あのさ、前に七央から、もう理央に会うなって言われただろ?」  喋らなくていいと言われて少しホッとした。  だから頷きでそれに返事をする。  「うん。 でね、何でかすげぇ腹が立ったんだ。どうして会っちゃ行けないんだよって」  なんで? 首を傾げて応えた。  確かにあの時、いつも七央の前でド緊張してた九条くんらしくなかったね。  「俺、あのパーティで七央のフェロモンに充てられたのかと思ってたんだけど、それ、違った」  そうだよね。だって七央、アルファだもん。あの時は知らなかったけど。  「でもあの時感じた運命は、間違いなんかじゃない」  …え? それっ、て。  やっぱり……、その、九条くんはまさか……。  「ん? あ、お前っ、また変な勘違いしてるだろっ! あのな、七央がアルファだからって、俺はオメガじゃないからなっ!そ、その勘違いだけはホントに勘弁しろ?」  あ…、そ、そうなの?  なんだ、よかった。もしオメガだったらオレきっとショック死してたぞ。  「え、っと、話が反れたけど、…要するに、だな。そのぉ、」  またヘタレちっくになってる。  えへへ。可愛いなぁ。  「う、…笑うなよ。 自分でも分かってる。俺が意気地なしのヘタレな事くらい」  あ。今度は拗ねた。やっぱり可愛いなぁ。  「だから笑うなって。 あー、もうっ。ちっとも格好良く出来ない。ごめん理央。俺こんなヘタレでポンコツだけど、お前に会えなくなるのは嫌だ」  うん。オレも。九条くんに会えなくなるの嫌だよ。たとえ誰かのものになっちゃっても。やっぱり九条くんに会いたいよ。

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