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ep.3
─俺の人生は終了した。
男子トイレの洗面台に両腕をついて、三住は魂を失ったように青白い顔で何度も思った。
夢なら醒めろと冷水で幾ら顔を洗っても、妙な火照りは治まらない。
いつも騒がしくて人を小馬鹿にしたような顔で笑う底辺チビ、桜庭。
「桜庭…あいつが俺の…俺の、恋の…」
それ以上は口にもしたくなくて、濡れた顔をブンブンと勢いよく振った。
「冷たッ」
近くに人がいたらしい。しまったと思うと同時に心臓が止まりかける。
─相手が桜庭だったからだ。
三住は固まったまま何も発しない。だが相手から視線を外すことも出来ないでいた。
「なぁ…大丈夫?」
殊勝な声で話す姿を三住は初めて見た。いつもとは全く違う不安げな顔をしてこちらを伺っている。
「ぶつかった時、どっか打ったとか…。本当に顔色悪いし…保健室行った方が良くね?」
何気無しに伸ばされた桜庭の手があと少しで腕に触れようとした瞬間、それを避けると同時に三住は初めて声を発した。
「触るなッ!」
余りの声に狭いトイレ内に三住の声は響き渡り、桜庭は思わず肩を竦めた。
「そ、そんなキレなくたっていーだろっ! 俺は本気でっ…」
桜庭は明らかに傷付いた顔をしていた。今の三住にはそれが痛い程判る。最後はもう何かを諦めたように俯き「もう、いい…」と、消え入りそうな声を残して逃げるように姿を消した。
─怖かった。
触られたら、おかしくなりそうで…怖かった─。
深いため息とともにズルズルとしゃがみこみ、震える指先で口元を押さえ、うな垂れた。
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