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ep.6
「全然楽しくない…」
死んだ魚のような目をして呟いた三住の後頭部を桜庭は思い切り叩 いた。その激しさに正面に座る女子が思わず驚き固まる。
不満気に殴られた頭をさする三住の左耳朶を引っ張って桜庭は小声で説教を始めた。
「嫌なら何で誘った時に来たんだよっ」
「だって…桜が女漁りに行くなんて言うから…」
「はぁ? 言ってねーよ! 勝手に話盛ってんじゃねえ」
二人は時田と共通の友人を交えて他校の女子生徒と4対4のカラオケボックス内で合コン中である。
花火大会までに彼女が欲しいと時田が言い出し、それに賛同した友人と、人数合わせの二人が来ている状態だった。
来る前からすでに三住の機嫌は悪かった。
男女交えて座るところを三住は桜庭を端にやり、その横を誰にも明け渡さなかった。
延々テンションの低いままでいる三住に、いい加減限界を覚えた桜庭は、部屋から連れ出した。三住は忠犬のように素早く立ち上がりその指示に従った。
「いい加減にしろよな、お前。邪魔すんならもう帰れっ」
「別に邪魔するつもりはない、けど…。桜も彼女が欲しいの?」
目には見えない忠犬の耳が寂し気に伏せられる。
「そりゃ、いないよりはいた方が良いけど…まだピンと来ないかな。今は友達とツルんでる方が楽しいって言うか…」
その言葉は三住にとって安堵のものであり、絶望のものでもあった─。
─自分の恋はやはり永遠に実らないのだと、三住は静かに瞼を閉じた。
どさくさに紛れて桜庭の手を握ったら、手の甲をすごい勢いで叩 かれクッキリ紅葉の型がついた。
「何なんだよ、ホントお前は! 俺のこと散々嫌ってたくせに、突然距離詰めてくるし、やたら触るしっ、何か変なモンでも拾って食ったんじゃねぇよな? 山に生えてた悪いキノコとか、誰かに変な呪術掛けられたとか」
「今の俺は気持ち悪い?」
「えっ?」
「俺といるの居心地悪い?」
「や、あの…」
「邪魔?」
「あ、いや、違…そーいうのじゃなくて…ごめん。まだちょっと慣れてないだけ、本当そんなつもりないから。言い過ぎた…。本当に、ごめん」
完全に追い詰められ、気まずそうに桜庭は頭を掻いて素直に謝罪した。
─桜の言ってる事は当たってる。
俺は、魔女 にリンゴを無理矢理食わされた。
王子様 のキスで、俺は─
─お前の嫌いな俺に元通り。
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