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ep.9
「うわ~っ、かわいいっハーフみたい」
桜庭は三住の部屋で幼い頃のアルバムを見ながら盛り上がっていた。
「この頃からブイブイ言わせてたんだろな~」
「ブイブイって…、てか何でアルバム?」
「何で? 仲良くなって浅いから昔の事知りたいって思っちゃダメなのか?」
純粋なまん丸の瞳をしてさらりと口にするものだから、三住は簡単にときめいた。
一枚一枚、ページを捲る度に桜庭は楽しげに笑っていて、その横顔がただ、三住には愛しい。
視線に気付いたのか、思ったより近くにあった三住の顔に驚き、「な、なにっ」と動揺してみせるが、三住に他意はなかったようで普通に首を傾げられた。
時田が妙な事を言うからだ、と桜庭は意識過剰な自分を嫌悪した。
「近すぎだから」
「ごめん」と優しく三住は笑う。それでも距離を空けようとしない。アルバムどころじゃなくなって、とうとう爆発する。
「だから見すぎだって!」
分厚いアルバムを振り上げられ、避けようと三住は倒れ、そのまま床に仰向けになった。「しまった」と焦る桜庭が上から覗き込む。
「ゴメン! 大丈夫か?」
心配で覗き込む桜庭とは裏腹に、三住はどこかぼんやりと桜庭を見つめた。ゆっくりと右手を伸ばしてその頬に触れてみる。
「ひゃっ!」
その体温の近さに桜庭は思わず右手を跳ね除け、反射的に三住は謝る。
嫌がったくせに桜庭はそこからは逃げようとしない。今度は自らが三住の両頬を手に包んだ。
次第に近くなる桜庭の顔に三住は目を見開いた。
「ダメッ!」
強い力で肩を押し返され、拒絶の声が部屋に響く。
桜庭は言葉を失い、すぐに自分の鞄を拾い上げ、フラフラとドアに向かうが、その肩を三住は掴んだ。
「ち、違う、桜!」
「何が?」
今にも泣きそうな桜庭が振り返り辛そうに叫んだ。
─偽物なのに痛い
イタイ…
三住は見えない痛みで窒息しそうだった。
「好きだ…」
それでも声は、想いは、止められなかった。
「何、ソレ、意味わかんねぇ…」
悲痛な声と一緒に頬にはすでに涙の筋が出来ている。
イヤダ…
忘れたくない─
こんなにも辛い、けど…忘れたくない─
もし桜と両想いになってその時が来たら、俺はこの気持ちを全部忘れる─。
─その時、残される桜は…ただ辛いだけだ…
イヤダ
傷付けたくない─
そんな事したくない─
─したくない、のに…
「なぁ、桜…。俺とプラトニックでいられる?」
「何…?」
「本当に、本当の、心だけ」
「…なら、友達のままでいいじゃん…」
俯いた桜庭は至極正論だ。
だけど三住には違う─。
「でも俺は、桜をこんな風に抱きしめたい。手を繋いだり、一緒に眠りたい─。お前に好きって言って、お前にも返されたい─」
腕の中で桜庭はまた泣き出した─。
「他の誰かと同等じゃなくて、俺だけ、特別の桜にしたい」
瞳が合った三住は、今まで一度も見た事もないような、苦しげな表情をしていて、本気なんだとハッキリと伝わる。
「わかった…」
弱々しい声で桜庭は頷く。その小さな頭を愛しそうに抱き抱えた。
「ありがとう、桜─」
桜庭はそれに返すよう、ぎゅっとその体にしがみついた。
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