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2。
男とは全く面識が無い訳ではない。むしろ、僕をよく買ってくれていた男だ。
彼のことを、僕は遠野さんと呼んでいた。
「ミヤビ。ぼくのところに来ないか」
「……えっ」
ある日の夜、一通り僕を可愛がってから、遠野さんがそう言って僕の頭を撫でた。
「小さいけれど、ぼくは商店を生業としていてね。男手がほしかったんだ。それに……可愛い君を、ずっと傍に置いておきたくてね。……迷惑、かな?」
少しばかり遠回しな、身請けを頼んでくれるという言葉と、こちらもやや遠回しに取れる、告白の言葉。
この娼館にいる男娼、そして娼婦たちならもろ手あげて喜ぶところなのだろうけれど。
どうしても、素直に喜べない自分がいた。
「え……どうして、僕を? ほかにもいるじゃないか。男なら、こんなところにいるような奴じゃなくて、もっと腕のいい男がたくさんいるし……。夜のほうで悦ばせてほしいとかなら、それこそ女……お嫁さんをもらったほうがいいよ」
その言葉に、遠野さんは少し困ったような笑顔を浮かべ、しばしの沈黙の後、緩やかに僕を抱きしめた。
「ぼくはね。君がいいんだよ。君じゃないとダメなんだ」
「……わからないよ、その言葉」
「今はわからなくていいさ。結論が出るのが、しばらく後でもいい。その結論が、ぼくにとっていいものであるなら、それはきっと素敵なのだけれども」
抱きしめてくれる男の身体の感覚は、まんざらでもないのだけれども。彼がここまで僕を求める理由が、なおわからなかった。
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