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第3話 好きになれない

 彼はそれからしばらくチームメイトの彼女と付き合ったようだった。最終的に「気が合わないから」との理由で彼女を振ったことを知らされたのは、それから一年ほどあとのことだった。 「兄ちゃん、俺、やっぱりあの子のこと、好きになれなかったよ」 「そうか」 「俺、好きな人がいるんだ。ずっと好きなんだ」  彼が苦しげに告げるのを、僕は受け流した。こんな小さな子どもの純情を弄ぶのは気が引けたが、きっとそのうち僕のことなど忘れて、これからはじまる青春を謳歌するようになるだろう。 「……そうか。じゃ、仕方ないな」 「兄ちゃん……」  その唇が「すきだ」の形に変わる前に、僕は彼から目を逸らした。  困る。  本当に、困る。  僕は彼を守る立場の人間だ。

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