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第4話 好きだから
中学に上がるとすぐに、彼は勉強に専念しはじめた。
「兄さん、俺、兄さんと同じ高校にいくことにしたよ」
「そうか。頑張れ」
「あと、また彼女と別れたよ。やっぱり好きになれなかった」
彼は少し寂しそうに笑い、報告してきた。
文武両道で手足の長い彼のことを慕う学生はたくさんいるらしい。その中でも、黒髪のきれいな、生徒会に所属する先輩と付き合い、周りを唸らせたが、すぐに別れてしまい、それを僕に報告してきた。
「俺、好きな人がいるんだ。でもその人は、俺より大人で、わきまえていて、強くて、正しくて、とてもかなわないんだ」
「……そうか」
僕には兄の大事な子を預かっているという使命感があった。その子には、明るい日向の道を歩いていって欲しい。
「兄さん、俺……」
僕は彼の言葉を心の深いところへ押し込めた。
「どうした?」
「ううん。何でもないんだけど」
彼は少し寂しそうに自嘲した。
「俺、兄さんが好きだから」
そうして箸を置いた彼の顔を、僕はちゃんと見てやることができなかった。
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