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第5話 補導

 それからしばらくして、彼が補導された。  路上で喫煙していたらしく、降りしきる雨の中、僕が警察署へと駆けつけると、彼は凍ったような目をしていた。 「怪我は?」 「……ない」 「煙草、どうしたんだ?」 「友だちにもらった」 「その友だちは?」 「知らない」  会話は平行線だった。こんなことで彼の人生を駄目にするわけにはいかない。僕にできることは謝ることだけだった。必死で頭を下げた。 「もうこんなこと、したら駄目だぞ?」  年かさの警官が、そう言って送り出してくれた。 「ごめんなさい、兄さん。俺……」 「もういい。怪我がなくてよかった」  彼の唇が横に引き攣れたのを見た僕は、理由も聞かずに彼を車の助手席に乗せた。

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