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第6話 宝物
竦然とした彼を風呂に入れ、僕は夕食を温め直した。
なぜこんなことになってしまったのか、考えれば考えるほど、僕といるこの環境の全てが元凶のような気がしてきた。彼と話し合わなければと思うが、何を話したらいいのだろう。
キッチンで溜息をついた瞬間、不意に後ろから声をかけられた。
「兄さん」
「っ」
すぐ真後ろに、シャワーを済ませた彼がボディソープの匂いをさせて立っていた。
振り返ろうとする前に、彼の腕と思われる長いものが伸びてきて、抱きしめられた。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。シャワーで温まった彼の体温に、わずかに反応する。同時に、腰に硬いものが当たった。思わず息を吸い込むと、電子レンジが悲鳴を上げた。
うなじの匂いをかいだ彼が、溜息とともに離れていった。
「俺がハンバーグ好きなの、覚えててくれたんだ」
固まっている僕をよそに、電子レンジの扉を開けると、まるで宝物でも見つけたみたいに、彼はそれを皿によそった。
その日、向かい合って食事をしたが、まるで味がしなかった。
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