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第13話

日本人に生まれておいて米を食わない食生活とは、大林にとって全く考えられない。 かといってスーパーに米を買いに行くかと言われれば面倒くさすぎていかないけれど。 ひとまず榊原のSNSに帰りに米買ってきてください。と連絡だけ入れておいた。 「おし、やるか。」 これは業務である。と割り切り、気合を入れる為に邪魔な前髪を結べば、さっそく調理を始める。 根菜類や白菜、舞茸などを無水鍋に入れ、少しだけ水を入れておけば勝手に野菜から水分がでるので、煮立つまでひき肉を揉み解し、しいたけやゴボウを細かく切ったものとチーズ、少量の味噌をいれてツミレを作っていく。 それらを程よく水分がでた無水鍋に投入し、アクを取っていき、鶏ガラスープの素やみりん、醤油、隠し味に塩昆布などをいれて煮込む。手際は実に見事なもので、味に満足すれば薄力粉と片栗粉を準備した。 薄力粉を少し多めに片栗粉と混ぜ合わせ、水を加えてとろろ状になるまで混ぜたものを先程の鍋に入れれば、すいとん鍋の完成だ。 米を食わず、麺類ばかりの食生活に足りてないであろう野菜を一気にとれる。しかも主食としても食べごたえのあるすいとんは、実は大林の得意料理の一つだ。 あとはじゃがいもをふかし、マヨネーズやコンソメ、バターと醤油をまぜてマッシュポテト状にしたものに片栗粉と卵をいれてボール上にしたものの中にチーズを挟み、あげ焼きにして芋餅もつくる。 これはお弁当に入れる用、とわけたところでふと思った。 「俺は弁当までつくる気か…。」 ちらりと時刻を確認すれば、なんだかんだで15時を回ろうとしていた。 来たのが12時ちょい前位だったことを考えると、あいつがかえってくるまで後3時間…とりあえず米を炊く必要は無いのでおかずだけ大量生産である。 結局お弁当にもつかえるような唐揚げや肉じゃが、きんぴらゴボウにスナップエンドウの和え物など、メインから添え物までコンスタントに作っていった。 なんだか乗りに乗ってきた。自分のためではなく、人のために作る、そして食べて貰うための料理というのはこんなにも楽しいのか。と気付けば鼻歌まで歌う始末、誰も聞いてないからこそ、なんだか少しだけ恥ずかしくなる。 結局おかずは冷蔵庫の中身として申し分のないスペースを埋めることができた。謎の達成感である。 ポコン、と音がなりスマホを確認すれば、米確保。後30分でつく。と可愛らしい亀のスタンプとともに返信がきた。 「ほんと、掴めねぇ人だなぁ…」 御意!と冗談めかしに返信すると、帰ってくる榊原の為に風呂でも沸かすかと思い立つ。 なんだか家政婦じみている自身の振る舞いに、バイト初日から飛ばし過ぎなような気がしないでもないが、下手くそなセックスで体力を削られることを考えれば、なんと清い疲れか。 このままセフレを切ってもいいのだが、30までに返さねばならない奨学金のことを考えれば、金はあって困らない。 頻度は必然と減るだろうことが予測されるので、ひとまず欲求不満になったらまた考えることにしようと決めた。 ひとまず風呂掃除でもするか、溜めるのはそれからだ。 大林は人様の家で服を脱ぐのはどうかとも思ったが、風呂掃除でビショビショになるであろうことは名博だったので、下着とカットソーのみを残して服を脱ぐ。 家では散らかすが、体裁だけでもととのえるために畳んで棚においておいた。 ひたひたと浴室に入れば、慣れた手付きでごしゃごしゃとバスタブを洗い、湯を貯める準備をした。 「ただいまー…って、あらら?」 玄関を開けたら出迎えてくれるかと思ったけども、と当てが外れた榊原は、大林が履いてきたであろうエンジニアブーツの横に履いていた革靴を並べると、ネクタイを緩めながらリビングへ向かおうとしたが、カコン、と浴室から響く音がする。 「うん?大林くん?」 「あ。おかえんなさい」 「お、」 カララ、と軽い音を立てながら扉を開ければ、白いカットソーを濡らした下着姿の大林がスポンジ片手に顔を出した。 「風呂はいるかなって、掃除。」 「ええ!!そんなことまでしてくれたの!?」 「まあ、いいお手当もらえるんで…」 思った以上に嬉しそうな榊原の様子が照れくさかったのか、口元をムズムズさせながら泡のついてない方の手で首を触る。 気恥ずかしときの癖だということは、知り会って日は浅いがなんとなくわかった。 「ええ、もう、なんか奥さんみたいだね?」 「彼女ならともかく奥さんって…つかせめて家政婦に例えてくださいって。」 「いやつい…というか、風邪ひかない?」 「は?」 引きませんけど、といいかけて今の自分の姿を確認する。 カットソーにボクサーという下着姿なのだが、夢中になって掃除してしまった為にビショビショになっていた。 大林はちらりと棚をみやり、下着の替えだけなんとかするしかない事を悟ると、面倒くさそうに溜息を吐いた。 「いや、ほらね?僕は全然構わないんだけど」 「ん?あぁ、すんませんこんな格好で」 「うん、白いカットソーがちょーーっとあれかな?」 「……………。」 服の裾を摘み、肌から離す。榊原が指摘する通り、水を充分に吸ったカットソーはしなやかな体に張り付き、細身のシルエットを強調させていた。 榊原は慌ただしく音を立てながら大判なバスタオルを出すと、それを大林にふわりと被せてやる。 「うん、これでいい。」 「……ども」 ひと仕事終えましたと言わんばかりの満足げな表情である。 もしかしてこういうシチュエーションに耐性がないのか?と邪智する。 振り回されまくってる手前、榊原のそんなうぶな様子にニヤリと笑うと、大林は悪戯をすることに決めた。

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