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第17話

なんだかとても良い香りがして、あったかくて気持ちがいい。 包み込むように回された腕は、離さないと言わんばかりにとじこめていて、それがなんだか嬉しくてむにむにと唇を動かす。 「ん、」 しょぼしょぼとする目をどうにか開き、顔の位置を調整してから榊原を見上げた。 「……………はよ」 すよすよと気持ち良さそうに寝ている顔をしばらく眺める。低血圧なので起きてからしばらくは使い物にならないのだが、居心地のいい場所は本能で見極めているので、榊原の顎の下。一番いい香りのする首筋に改めて自ら埋まりに行く。 今日が連休でよかった。榊原も確か休みとか言っていたきがする。 起きて朝食をつくるにも、まだ早そうだしと二度寝を貪る所存である。 もぞもぞと榊原の背に腕を回して隙間を埋めようとしたとき、下腹の位置にチャンネルのような固さの何かが存在を主張した。 「ん。なに…?じゃま……」 なんとなく収まりが悪くて、異物を取り除くために下腹部を探れば、大林にとっても馴染みの深いものが手に触れた。 「………………ひゅっ」 「んン……っ」 手のひらに当たるものは紛れもなく榊原の朝の生理現象で、その長大さは手のひらを軽く超えていた。 その存在感に驚愕するあまり思わず変な呼吸をしてしまったが、しっかりと握りしめてしまった手前、頭上から榊原の息を詰めるような声に心臓が跳ねる。 ど、どうしよう。 これが下腹部を、押し上げていたのである。 ここ最近健全な生活を送ることになったために他人の性器に触れるのも一月ぶりである。 どくどくと心臓はやかましく主張し、榊原自身の性器も張り詰めているように熱い。 大林はじわりと思考に熱が染み渡る感覚に陥った。 これは、駄目だろ。と認識はしていても、ひくりと反応を示した素直な体はとっくに熱を持て余している。 寝ている榊原に悪戯をして、もう来なくていいと言われたらどうしよう。頭では最悪のシュミレーションが出来るのに、大林の体は勝手に反応をしてしまう。 寝ている榊原にすり、と体を寄せると、少しくらいなら寝ぼけてたでごまかせるかな…と榊原のそこに合わせるかのように大林自身を押し当てた。 「ぁ…、」 腰のあたりが甘く疼く。寝込みをおそうかのような行為にバレたときの言い訳を考えながら、緩く布越しに腰を揺らしたときだった。 「は、…」 「っ、ぁ…え?」 ふるりと榊原が身じろぎをしたかと思えば、腰を押さえつけたままくるりと体制を変えられた。あまりに突然な出来事に、起こしてしまったかと青くなるが、寝ぼけ眼な表情で大林の上に乗り上げると、そのまま首筋に顔を寄せた。 「ぁ、ま…てっ」 「ん…うるせ…」 うるせえ!?と普段聞かない榊原の乱暴な言葉使いに動揺したすきに、べろりと首筋を舐め上げられたかと思えば、脇腹からスウェットをたくし上げるかのように手を地肌に這わされる。 大林は何がなんだかまったくわからないながら、ただ息を荒げてしまう。 「は…っゃ…う、そ…っ」 ご無沙汰なせいで身体は鋭利な刺激に反応する。胸元に舌を這わせられたかと思えば、ピンクに色付いた突起に甘く吸いつかれた。 「ぁっ…さか、き…」 気持ちいい。このまま流されてしまえば、抱いてくれるのだろうか。空いている手で突起を遊ばれながら、ちぅ、と巧みに舌を絡めながら吸われる。 大林の足の間を陣取った榊原は、熱くなった股座を大林のものに押し付けるように甘く揺らす。 「は、きもちい、…っぁ」 駄目だとわかっていても、浮かされる。止めようとシャツを引っ張っていた手も抵抗をやめ、するりと髪を梳くように榊原の頭を撫でた。 「ん、ン…むね、も…やだ…」 「ン、…すき…?」 「ぁ、…すき…っ」 執拗なまでに胸を甘く責められ、息が苦しい。気持ちが良すぎて呼吸がままならない。 朝から馬鹿みたいに責められて、ふしだらだ。 性器を押し付けるように力強く擦り合わされれば、にち…と大林の性器から漏れた先走りが恥ずかしい音を建てる。 「ぁ、ぁい…イく…ッ、イく…から、ゃ……ぁっ」 「ん、いいよ…可愛い…」 「ぁ、ぁ…っあ…ぁ…」 ずり、と一層強く擦りあげられれば、大林の性器は刺激に耐えきれずにびくびくと震わせながら下着の中に遂情した。 「は、…は…っ」 「ん、ん…」 下着が濡れて気持ちが悪い。ボクサーの隙間から零れてしまった精液が尻のあわいをつたう刺激でさえ毒だ。 腹筋を引くつかせてびくびくと余韻に浸っていれば、ぢぱ、と濡れた音をたてて榊原の唇が胸から離れた。 「ぁ…っ」 「…ん?」 先程の虚ろな目が徐々に開いていく。やがてぱちぱちと瞬きをしたかと思うと、大林のあられもない姿に目を見開いた。 「あ、…お、おれが…?」 熱が抜けきらない頭で、俺とかいうのかこの人…などと思考が飛ぶ。先程の様子から寝ぼけていたのは明らかで、その事実がじわりと柔らかい部分を汚すかのように侵食する。 ノンケが寝ぼけていただけ、で済まされるのだろう。胸ばかり執拗に攻めてきたのも、きっと奥さんと間違えたに違いない。 大林はじわりと滲む涙を隠すかのように腕で顔を隠して、落ち着くために深呼吸をした。 「っ、ふ…」 「………………。」 沈黙が痛い。何でこんなことになったのか。 何でしっかりと抵抗をしなかったのか。 寝ぼけて襲われたとはいえ、許した大林にも少なからず否がある。 ただの寝ぼけた戯れあいで済ませれたはずだったのに、それをしなかった。 寝ぼけてでも、触られたことに喜びを感じてしまったのだ。欲求不満だけでは説明がつかない。 榊原の手や舌は、巧みに大林を翻弄したのだ。 演技ではない嬌声をあられもなくあげてしまったことが何よりの証拠。 俺は、榊原さんのこと、好きなのか。 自覚と同時に罪悪感に苛まれ、その事実がひどく大林を傷つけたのだった。 静かな朝は、大林の心情を如実に表すように、ひたすらに青く室内を照らしていた。

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