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第20話

「タイム。あいつとくっついたのはしってるけど同棲までしてるとは聞いてない!」 「逆になんでしってんの!?」 呆気にとられたまま、まず大林の頭をよぎったのは柴崎のあの言葉だった。 “旭に関してはプラトニックでも構わないと思っている。” 確かにあいつはそう言っていなかっただろうか。 旭がフロアに在籍するようになったあたりに、後輩であることを知った大林が、からかい混じりに狙っちゃおうかな?とつついた際、柴崎は俺の可愛い後輩に手ぇ出すなと割とマジなトーンで言われていた。 マジなの?つまんねーの、と言った時にとてもいい笑顔で、お前みたいな悪食”で”マニア層向けゲイ“に言われたくねぇななどと言われたのだ。 自分はプラトニックなつもりか!と、言い返した際に確かに言っていた。 エレベーターで乗り合わせた時に、旭に構うな。と独占欲剥き出しに牽制してきた時には既に旭は抱かれていたというのか。 人の色恋沙汰に口を挟むつもりなんて野暮はしない大林が、ここまで噛み付くのは相手がもちろん天敵である柴崎だからだ。 旭は大林が体の関係を抜きにして自然に振る舞うことが出来る数少ない友人なのに! 「い、いまどんくらい」 「え、二週間ちょっとくらい?」 「まっっっ、て」 大林の心を知ってか知らずか、弁解するように同棲は来月から!とフォローを入れられるがそういう問題ではない。 「俺の旭が…」 グダグダ呻いていたところで何もならないのは大人なので理解している。旭は素直で優しくて、聞き上手だ。最初は柴崎に狙っちゃおうかななどと言っては見たが、接するうちに自然体でいられることに気づき、居心地のいい関係にほっとした。 こんな自分でもちゃんと友達と呼べる相手ができたことが何より嬉しかった。 だからそれを横取りするように掠めとった柴崎のことが大林は大嫌いである。 柴崎から見たらおもちゃを取られて癇癪をこねる子供のように見えているのだが、実際はちがう。ただ大林の語彙が少なすぎてクソガキ扱いされているだけだ。 「…とりあえずお風呂行きな?湧いたみたいだし、ね?」 「うん…、っ」 体を乱暴に暴かれたせいで少しの動作も軋むように節々に痛みが走る。 忘れたいことがあったとはいえ、痛みに走ることになるとは自分の迂闊さが招いた結果であった。 見かねた旭が体を支えてくれたことに甘え、ぎゅうと抱き締めれば、宥めるように背を撫でられた。 「大丈夫?、シャワー浴びるの手伝おうか?」 「狭いだろ?でも一緒に入ってくれんなら甘えたいかも」 「素直なとこすきだよ俺」 「やめろてれる…」 別に邪な気持はないが、脱ぐのに体を動かすことすら気だるいのだ。それに旭なら同じ受け手側だろうし、という安心もある。 ふらふらした足取りで脱衣場にいけば、歯ブラシが二本はいったコップが目に付き、本当に付き合ってるのだなと思った。 「いいな、」 「え?」 ぽろりと出てしまった本音を拾われる。なんだかそれが恥ずかしいことのような気がして、聞き返された声を聞こえないふりをしてやり過ごす。 ポチポチとシャツのボタンを外していく横で、豪快にジーンズを下着ごと脱いだ旭に思わず吹き出した。 「おま、いいけどタオル巻けよ!」 「だって大林だしいっかなって。」 やっぱりこいつも男なんだよなぁ、とまじまじ見つめると、流石に恥ずかしくなったのかタオルで顔を隠された。 隠す場所が違うが、こういうずれた部分がなんとなく好きで甘んじてタオルを顔にかけたまま自身もスキニーごと下着を脱いだ。 上半身のみ服を着て、下はむき出しの二人だ。なんだかその状況が面白くて、くすくす笑いながら残りの服も潔く取り払う。 「なんか旭のせいで気が抜けた。」 「そりゃよかった!あとは体だけ元気になろうね!」 「なんかいい方がなぁ…」 プラスチックの椅子に座り、バスタブの縁に腰掛けた旭によってワシャワシャと髪を洗われる。 体の洗い方って本当に人の個性が出るよな、と思うくらいにワイルドな洗い方で、先程から頭が揺れる。 前はともかく、背中側も泡立てられたスポンジを滑らせるように少し強めの力加減で泡まみれにされたのち、一気にお湯で流された。 効率はいいが、雑である。柔和な雰囲気で周りから可愛いといわれている男でも、やはりこういう部分でギャップがあるから笑えてしまう。 「お風呂あがったら、傷の手当しようね。」 「うん、」 するりと腫れた頬を撫でられる。性的な意図が全くない、心配そうな顔で見つめられると照れくさい。 甘えてもいいのだろうかとおもってしまう。 結局あの後は狭い湯船に二人で膝を抱えて入ったあと、寒い寒いといいながら慌ただしく着替えを済ませ、頬に貼られたシップのメンソールに目を虐められながら二人して暖房器具の前に膝を抱えて横並びに暖を取っている。 大林が話し出すのを待つつもりだったが、そろそろ柴崎の退勤時刻もちかいので、早いほうがいいだろう。 「で、なにがあったの?」 「やっぱりきく?」 「殴る恋人でもできた?」 「あの人はそんなことしない…あ。」 旭のゆるい雰囲気に流されるようにぽろりと溢れれば、やっぱりという表情で旭が少し楽しそうに笑った。 「好きな人できたんだ。じゃあその怪我は別の人?」 「うん、うん、…。」 むしろ好きな人を忘れるために別の人と寝た結果ですなどと、この純粋な旭へ伝えてもいいのだろうか。 性的嗜好が男だというのは旭自身も柴崎と付き合ってるので偏見はないだろう。 じゃあ、もし相手が既婚者だったら。 旭のその純粋な目は変わらずに向けてくれるのだろうか。

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