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第27話

結婚してなかった?なら自分は勝手に勘違いで暴走して、泣いて、キャパオーバーして勢いで告白してしまった? よく考えてみれば、二週間の長期出張から疲れて帰ってきた榊原の膝に乗ってることすらだめな気がしてきた。 やばい、どうしよ。 大林の顔色はまるで点滅する信号機のように慌ただしく変化していく。 榊原はそんな様子を見ながら、また余計なことでも考えてるのかなぁ、と、あたふたする雄弁な表情に少し満足気であった。 そしてなによりも、大林が自分の事で頭が一杯になる様子に満足しかないわ、と考える狭量な自分がバレないことを祈る。好きな子には汚い部分は知られたくない。 「あ、ぁああ、あのお、おりる…」 「降りないで、ここに居て?お願い。」 「う、ぅう…」 またお願いだ!と慌てる。大林は榊原から頼まれると、非常弱い。これが惚れた弱みなのか。だとしたら先に惚れたほうが負けな気がしてきた。気恥ずかしくなると耳まで染まる姿が可愛い。口付けをしたくなるようなそんな具合だ。 榊原は大林を膝に乗せたまま、自身も落ち着く意味合いを込めながらなだめるように背を撫でた。 「頬の湿布の理由は?」 「…売りやめた、すこしでもちゃんとしたくて」 「それで、殴られた?」 「でも、最後は納得してもらった。」 「…そっか」 榊原の為に、きちんとしようとして殴られた。 湿布の貼られた頬を照れくさそうにかく様子にたまらなくなり、大林の首筋に擦り寄る。 告白をしてくれるために、自分で何が誠意かを見極めた。その姿が嬉しくて、愛おしい。 いつも余裕で、たまにこ憎たらしいことを言う唇で、涙を流して好きだという姿。 誤魔化すことを知らない素直な一面に、報いたかった。 「ありがとう、な」 「…はい。」 「僕のになって。」 「口調、戻ったね」 「ふ、また余裕無くなりそうだけどね、」 「ぅ、ン…」 ぎゅ、と服を握りしめ、頬を染めたままじわりとまた涙が出そうになる。縋るように見つめられれば、その気持ちに答えるべく、掬うように唇で涙を拭った。 榊原は、行動で示したほうが何よりも相手に伝わるということは、早々に理解していた。 そして二回目。重ねた唇、先程と違うのは歯列に沿って割開く舌。 ひく、と体をはねさせた大林の後頭部を抑えると、そのまま唾液を絡ませるように口付けを深くする。 「すき、」 「ぅ、く…」 「ン、大好き。」 「ふぁ、…っ」 口付けの合間に、息継ぎのための僅かな瞬間に伝われと思いを紡ぐ。大林は目尻から伝う涙でこめかみを濡らすと、そのまま背中に腕を回した。 気付くと、天井をバックにした榊原が余裕のない顔をして見つめていた。 この人のいろんな顔を見れて嬉しい。余裕のない姿が嬉しい。もっとキスもしてほしい、そして、その先も。 「ここじゃ、やだ」 「わかってる、今鎮めてるから、待って。」 「ぁ、」 きつく抱きしめてくる腕の中で、大林はドキドキしっぱなしだ。余裕が無くなるごとに口調が荒くなるのも、そうさせてるのも自分だという事実が泣きそうなくらい幸せだった。 「りょ、うさん」 「く、鎮めてんだって…今。」 内股に、興奮で硬くなった榊原のそれが存在を示す。 耳元で深くなる深呼吸に、なんだかその時間がもったいない気がした。 「おれ、」 「ん?」 「抱かれて、イったことないんだ…」 一体何の話だと首筋から顔を上げ見つめる。イったことがないとは、そういう意味で抱かれたときの話か。 ぐるり、と黒いものが胸に渦巻くが、大林の一言でそれも霧散した。 「だから、涼さんが…教えて下さい。」 「っ、意味わかってんの…。」 「あの日みたいなの、もっかいして…」 ちゃんとした、きもちいいを知ったあの日をもう一度。 「わかった。」 征服欲と、嫉妬と喜び。いろいろなものがぐちゃぐちゃに混ぜて複雑な色を織りなす。 初めてではないはずの大林が、顔を真っ赤に染めて告げた真実に、榊原は新たに自分自身を教え込む決意をした。 色々な事を経験した大林に、気持ちのこもったセックスを教えてあげたかった。 そして何よりも、この重い愛をその身に強く刻み込む為に。 「ぁ、も…っやぁ…だ…っ」 「まだ、駄目だ。」 濡れた音が響く寝室、あの日の朝をなぞるかのように、榊原の熱い舌と唇で胸元を愛撫されていた。 時折歯をかすめてやれば、ひくんと背筋を震わせて胸をそらす。いや、という言葉と裏腹に強請るような仕草に喉奥で笑いながら、ぢゅ、と強く吸い付く。 「ンぅ、ううっ…!」 「は、きもち?ここも、濡れてきたな。」 右手で胸の先端を、左手で布越しでもわかるくらい主張した性器を握られ、とぷんと先走りでシミを作る。 大林は甘い刺激に翻弄されるかの様にふわふわとした間隔に酔っていた。 痛いだけのセックスが、愛がこもるとこんなにも違う。もっと触ってほしくて、榊原の大きな手に押し付けるように無意識に腰を揺らす。 「ぁ、ぁう…ふ…も、っと…」 きもちいいの、して。 「ん、梓。」 「ぁ、んンっ!」 耳元で甘く囁かれれば、可愛がられていた胸の尖りは健気に主張し、それが榊原の上半身に押しつぶされると電流が走ったように体が痺れた。次いでじわり、と粗相をしたかのように下腹部の濡れた熱が広がる。 名前を呼ばれた、たったそれだけのことなのに。 「腰、あげて。」 「は、は…ぁっ、やだ、や!」 吐精後の余韻に浸るまでもなく、汚れた下着を脱がされたかとおもえば、榊原は震える大林の膝裏に手を差し込むと左右に大きく開いた。 ただでさえ白濁が絡む恥ずかしい状態だというのに、堪らず手で隠そうとしたが、触れたのは榊原の頭だった。 「ひ、ぁ!っ…」 「ん、ん…」 ぢゅ、ぢぱ、と恥ずかしい音を立て、達したばかりのそこに舌を這わせて吸い付いた。 吐精し、柔らかくなった性器を嬲るかのように口調で弄ぶ視覚的な刺激と背徳感に、首を振り否定しながらも、口から漏れるのは嬌声ばかりだ。 「ゃ、ぁも…ち、んち…やぇ、て…っ」 「ん、やら…」 「しゃ、べん…ぁあっ!」 「っ、」 無意識にゆるゆると腰を動かして浅ましく刺激を追う痴態に、榊原も張り詰めた下腹部を逃してやろうとジッパーをさげる。 「ひ、っ…」 熱に浮かされた視界の端で大林の瞳が捉えた榊原の昂りは、今まで経験してきた中でも見たことのないようなサイズ感であった。

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