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第2話

『一週間後、この世界から皆さんを違う世界へ転生させます』 そんな声が突然聞こえたらパニックになるだろう。 予想通りというか、女神の言葉を信じる者、ただの幻聴だと喚く者、反応は様々だったが、ここで女神が暴挙へ出た。 『この私の言葉が信じられないのかしら? ……それじゃあまず西の都から行きましょうか』 その声が聞こえた後、本当に西の都から人の姿が消えたらしい。 そしてだめ押しとばかりに、 『これで分かったかしら? さあ後五日でこの世界とはお別れですよ』 そう言われて素直に信じる者はまだ良かった。 「そんな馬鹿なっ!! これは何かのまやかしだっ!!」 「そうともっ!! 偉大なる創造神カスティア様がこんなことをされるはずがないっ!!」 反論するのは主に貴族や裕福な商人が多かったように思う。 (まあ、ここまで稼いだもろもろの物、置いていきたくはないよな) 王様とか貴族って大変なんだな。 ただの兵士の俺はそう思っていた。 正直いきなり転生とか言われても現実味がないし、大事な相手も……いるけど。 『向こうでも勿論一緒だよ。それににしてもここで縁が深い相手とは向こうでも近しい関係になれる、って神さまも凄いね』 『……そうだな』 (そこまで話を合わせなくてもいいのに) もうジュリアスの気持ちが俺にないことは分かっていた。 適当に相槌を打つ俺をどう思ったのか、 『そんな顔しなくても大丈夫だよ。必ず近くにいる、って』 でも兄弟とかは困るかな。 そう続けて笑ったジュリアス。 (もう、いいのに) 俺には分かっているから。 『あれ、もしかしてヒューゴ?』 (何でお前がここにっ!?) 内心の動揺を押し隠して応じる。 「ああ。……カイネか」 二つ下の弟として生まれてきたカイネは、その淡い茶の瞳も含めて前の世界での顔立ちそのままだった。 俺は少し変わってしまったというのに、 「ヒューゴは少しだけ変わった? 何だか前より……」 「何だっていいだろ、そんなこと」 「よくないよ。シオン。もう少しよく考えようよ」 シオン、と呼ばれたこいつも俺達と同じ世界からの転生者だ。 カイネとは同じ部隊に所属していたらしい。 (そう言えばカイネとよく一緒にいたみたいだな) 「それよりも何でお前がカイネと兄弟なんだ?」 「そこは俺も思う」 ちなみにシオンは高崎紫苑で、俺と同じ高校に通う二年生。 カイネは杉本華衣禰で、現在中学三年生である。 「確かに近しい存在の者同士はそうなる、とか言われたけど」 カイネがうーん、と唸っていると、 「まあ会えたんだから良し、ってしとこうぜ。それよりお前の前の兄貴はどうしたんだよ?」 「「……」」 沈黙してしまった俺とカイネを見たシオンが慌てたように、 「え、おいまさか」 「……まだ会ってないよ」 カイネが沈んだ面持ちで返答した。 まだ俺はジュリアスと再会していなかった。 (そりゃそうだよな) 向こうは義理で付き合ってくれてたんだから。 だが、弟だったカイネと再会してないのはおかしかった。 (あのブラコンがカイネと離れるはずないんだが) それとも転生後のジュリアスの見目が変わりすぎていて気付かなかった? 「嘘だろ。だってあんなに」 「もういいよ。それは」 傷口を抉られたような痛みを悟られたくなくて、些かキツイ口調になってしまった。 その後は気を遣ったのか、ジュリアスの話題が出ることはなくなった。 (結局、気を遣わせているな) 自分の不甲斐なさに情けなくなってくる。 そんな時だ。 ちょっと遠出しよう、という話になり何故かメンバーは俺とシオンとカイネとなった。 「あー。ちょっと話したいことがあってさ。でももういいや」 シオンが言いづらそうに口を開いたのは、ゲーセンでさんざん時間を潰した後、目当てのカラオケ店が満室で、どこで落ち着こうかという話になった時だった。 すると前を言っていたカイネがくるり、と振り返った。 「だめだって!! ちゃんと聞くぜっ!! 俺達親友だろ!!」 「だが、こうして部屋がなかったことだしさ」 普段からズバズバ言うシオンにしては歯切れが悪い。 (悩み事か) この年代ではそういったことには事欠かないし、ましてや前の世界の記憶まである。 (もしかして俺達にしか話せないことか) だったら話を聞くくらいしてやった方がいいか。 カイネの方へ向かって俺が頷くとカイネはにかり、と笑って近くにあった喫茶店目指して駆け出した。 「ほら、ここにしよう……」 扉を開けかけたカイネの台詞は俺がよく知る声に遮れた。 「カイネッ!! やっと会えたねっ!!」 (ああ。やはりそうなったか)

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