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「何かの罠やもしれません」

「どうだ、隆敏。好みの女が居るなら、手をつけてもかまわぬぞ」 「はっ。……え、あ、いや」 「どうした。居るのか」 「そ、そのような事は――」 ふふ、と口角を上げる宗明と、酒をくらったような顔の隆敏の側に、おとないを告げる声が届いた。 「兄思いの弟が、隠居祝いに来てくれたようだな」 「何かの罠やもしれません」 「はは。心配性だな隆敏は。人払いをして、奥の間へ通してくれ」 迎える部屋に足を向けた宗明に、隆敏は心配そうな顔で頭を下げた。 *** 従者を別の部屋に待たせ、成明は一人、宗明と隆敏の待つ部屋へ入ってきた。襖を閉めたとたんに肩の力を抜いた成明は、肩に手を置きほぐすような仕草をしながら胡坐をかいた。 「まったく、何故このようなことになったのか」 「もともと、領主にはおまえのほうが向いていると思っていた。私はかまわんよ」 「堅苦しいのは、苦手なんだって」 二人の様子に、隆敏が苦い顔をする。 「すまんな、隆敏。こんなことになって」 「いえ」

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