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60話 / 31,826文字 / 126
口惜しゅうござりまする
2017/7/5
「よし、では領内に通達をせよ」
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「何かの罠やもしれません」
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「なんとも、厄介なことだ」
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「否やとは、言えまい」
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自分が、女であれば。
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「俺は、いろいろなものを知らなかったらしいな」
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「まったく、息が詰まってかなわん」
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「そういう態には、なっているだろう」
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「何を、言っている」
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「兄上とは、何度会った」
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変化は、怒涛のようにやってくる。
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「では、行ってまいります」
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「顔を、見せよ。こちらに参れ」
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触れて、欲しかったんだ。
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「このように、沢山溢れさせて」
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「なれば――その口で、奉仕せよ」
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今度は宗明が春吉を含んだ。
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「いささか、御執心が過ぎるかと」
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その声は、夜明け前の闇よりももっと、暗く重かった。
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下世話な顔が間近にあった。
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膝を寄せて声を潜めた光正の息がかかる。
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好色な笑みを向けられた。
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代わり身、なのだろうか。
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「もう、日が暮れるな」
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身を強張らせた隆敏が平伏した。
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彼の心を求めていることを、自覚している。
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「すぐに、兄上を連れていけ」
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「私も、望みのためだけに動けるのなら」
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隆敏が眉間に皺を寄せた。
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「宗明様はいずこか」
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「それで、春吉はどう思ったの」
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「何があっても、宗明様の側に居たいんだ」
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ならば、そのためだけに、行動をすればいい。
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「無事だったかぁ」
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「姉さん、僕、屋敷を抜け出すよ」
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光正の言葉に、春吉は記憶を探る。
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「あぁ、もう、知らぬぞっ」
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呟いてみても、応える者は居ない。
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「いったい、その格好は――」
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「隆敏。この荷は、何だ」
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「では、どうして――」
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縋るような目を、春吉が光正に向ける。
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春吉は成明の前に突き出された。
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「国主様に、文を書いていたんだ」
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「兄上を、頼む」
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「兄上を逃がしたのは、俺だからな」
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「それは危険だと、申し上げたはずです」
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「味多様に、文を送った」
2017/7/5
「本当に、私は何も出来ぬのだな」
2017/7/5