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「味多様に、文を送った」
「身を、おかがめ下さい」
息をつめ、様子を伺う。そこに、成明と春吉が現れた。思わず腰を浮かせた宗明の姿を見止め、成明はのんきな様子で片手をあげて見せた。
「やはり、見張るにはこの辺りだと思った」
「春吉――」
思わず手を伸ばした宗明の傍へ、春吉が駆け寄ろうとする。それを留めた成明が、にやりとした。
「感動の抱擁も、安全な場所へ移動してからにしないか」
その言葉に、全員が頷き庵へ戻ることになった。
***
庵に着き、車座になって腰を落ち着け、成明がまず口を開く。
「とりあえず、兄上と春吉は事態が収まるまで、ここで大人しくしておいたほうがいい。――――兄上、しばらく隆敏を借りてもいいか」
「どうするつもりだ」
「味多様に、文を送った」
空気が緊張する。
「愛娘の虚言を信じ、動かした兵を収めて欲しいとな」
「国主様に――」
「樋后家が取り潰されるかどうか、五分五分って所だろうが――仮にも国を預かる立場の方が、娘可愛さのために下らない行いをなさろうとするなら、隠遁生活をするさ。腹を切るのは、痛そうだからな」
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