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「それは危険だと、申し上げたはずです」
無言で、首を振る。
「なら、一頭でいいな。――――走るぞっ!」
飛び出す成明に、慌てて春吉も床下から出る。目の前には厩があり、成明は手早く一頭に鞍を付けて手綱を掴んだ。ひらりと飛び乗り、追いついた春吉を抱えあげる。すぐに走り出した馬は、たっぷりと助走をつけて裏庭で垣根が一番低くなっている場所を飛び越えた。あまりの速さに、春吉がしがみつく。
「こんなところを見られたら、兄上であってもさすがに怒りそうだな」
その言葉に、思わず「本当ですか」と言いそうになったのを堪え、春吉は成明の腕の中で流れる景色を瞳に写した。
***
彼らにとっては簡素で質素な食事を終え、宗明と隆敏は屋敷の見える位置に戻っていた。木陰から伺うが、詳細がわからない。
「何も動きがないようですな」
「隆敏――成明のところへ参らぬか」
「それは危険だと、申し上げたはずです」
「わかっている――だが」
「歯がゆいでしょうが、今は堪えていただきたい」
「――――わかった」
表情と同じ声の宗明を、目の奥に痛みの色を滲ませて見つめる隆敏が、何かに気付き周囲に目を向ける。
「どうした」
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