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「兄上を逃がしたのは、俺だからな」
「本人に、聞けばいい」
町民の格好をした成明に、春吉は唇を引き結んで頷いた。
「それじゃあ、その当人に会いに行こうか」
カタン、と床の間に飾ってある流木を動かした成明が、開いた床に身を滑らせる。春吉が続き、床下に下りると成明は流木を戻した。感心するように見上げる春吉に、悪戯っぽく片目を閉じてみせる。
「堅苦しいのが苦手でな。こうして時々、抜け出している」
言い終えると中腰で進みだす成明に、春吉が続く。
「居場所を、知っているんですか」
「兄上を逃がしたのは、俺だからな」
「――え」
「押し込んできた奴に、兄上の場所を聞かれたのか」
「いえ――聞かれる前に、光正様が隆敏様に言われて、僕を連れ出しにいらして」
「なら、隆敏は屋敷の側にいる可能性が高いな」
「あの――」
「なんだ」
「いえ」
そこからは、黙々と床下を進む。光が見え、抜け出す前に成明が振り向いた。
「馬には、乗れるか」
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