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「兄上を、頼む」
「兄上と会えたら、教えてもらうといい」
「えっ」
顔を文机に向けたまま、春吉に目を向ける。
「兄上を、頼む」
ひゅっ、と春吉の喉が鳴った。目を伏せ、立ち上がった成明は行李から着物を取り出し投げて寄越した。
「その格好じゃ、目立つ。それに着替えて出て行け。地図は……読めないだろうな」
息を吐き、こめかみを掻きながらどうしたものかと呟いた成明がポンと手を打つ。すぐに文を折りたたみ、着替えて待っていろと言い置いて部屋を出て行った。残された春吉は、投げられた着物を広げる。平民の――かつて自分が身に着けていたものと変わらない、それよりは手入れのされている着物を眺め、袖を通した。
着替え終わる頃に戻ってきた成明が、春吉を満足そうに見る。
「俺のものだから大きいが、まぁ、我慢してくれ。俺もすぐに用意する」
言って、行李からもう一枚着物を取り出した成明は、着替え始めた。
「――あの」
「うん?」
「宗明様の……」
「言いかけたなら、迷わず言えばいい」
「宗明様の御正室は――いえ、その……」
「人となりが気になるか。自分に似ているかどうかが気になるか」
春吉が身を硬くする。それを解すような顔を、成明は見せた。
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