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呟いてみても、応える者は居ない。
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屋敷内がなにやら騒がしい、と隆敏は木々の間から身を乗り出した。どこか様子を伺える場所はないかと身を隠しながら動く隆敏は、塀の合間、一部垣根にしてある箇所から、縄をかけられた春吉と光正の姿を見た。
――どうする。
自問する。が、多勢に無勢すぎる。囚われたからと言って、すぐにあの二人がどうこうされるという事にはならないだろう。
――ひとまずは、宗明様の事だ。
馬のところへ戻り、脳内にこのあたりの地図を広げる。どこかで食料を手に入れて、庵に戻ろう。そう思う足は、馬の腹を蹴っていた。
***
代わり映えがしているのかしていないのか、よくわからない木立の中を宗明は進んでいた。淡い土と緑の香りが身を包んでくる道筋は、歩きやすいと言えるくらいであったが、宗明はうっすらと汗をかき、薄く開いた唇から漏れる息はわずかに苦しげであった。
どのくらい歩いてきたのだろうか。道中、幸か不幸か誰ともすれ違わなかった。手ごろな岩を見つけ、宗明は腰を下ろす。喉の乾きを覚えながらも、何も持っていないことを知っている。
「情けない」
呟いてみても、応える者は居ない。このようなことは、今まで一度も経験をしたことがなかった。自分の側には、必ず誰かが居た。乾けば、何かを用意された。疲れれば、労わられた。
「本当に、私は何も知らず、一人では何も出来ぬのだな」
唇に、薄氷のような笑みが浮かぶ。瞼を伏せて深く胸に緑を吸い込むと、天に向けてそれを吐き出す。
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