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「いったい、その格好は――」
――佳枝も、同じなのだろうか。
だからこそ、このようなことをしてしまったのだろうか。今まで与えられてきたものと変わらない認識で成明を欲し、自分がしようとしていることが及ぼす影響を想像できないまま、このような事をしてしまったのだろうか。
――戻ることが、自分でも出来なくなっているのではないだろうか。
想像以上の大きさとなった事態が手におえなくなり、進むしかなくなってしまっているのではないだろうか。
――私達は、愚かだな。
腰を浮かせ、再び歩き出した宗明の耳に、馬の足音が届く。少し迷ってから、身を隠さずそのまま進むことにした宗明の前に、隆敏が現れた。
「宗明様」
目の前で馬を止めたかと思うと滑るように降り立ち、宗明の姿を眺める。
「いったい、その格好は――」
「ああ。あの庵にあったものを、勝手に拝借した。このほうが、目立たないだろう」
にこりとする宗明を呆然と眺めつつ、顔をしかめていく。
「ずいぶんと、用意が良いように思えますが――」
「それは、そうだろう。あの庵は成明のものだからな」
しれっと言った宗明に、隆敏が目を丸くする。
「本人から聞いたわけではないが、まず間違いはないと思うぞ」
「あのようなものをお持ちとは、ついぞ聞いたことがありません」
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