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「隆敏。この荷は、何だ」

「それは、そうだろう。誰かに知られれば、抜け出すに不便だからな」 そこで、隆敏は成明が昔から屋敷を抜け出しては、領内のあちらこちらに行っていたことを思い出す。 「服を着替えて屋敷を出れば見咎められるだろうが、普段どおりの服装で堂々と出かければ誰も止めないだろう。屋敷から離れすぎず、かといって近すぎず、領民に混じるための準備をするには、あの庵の位置は丁度いいとは思わないか」 感心したようにゆっくりと頷く隆敏に目を細め、宗明は馬の背を見た。 「隆敏。この荷は、何だ」 「食料と、着替えを近くの町より調達して参りました」 「それは、助かる。喉が渇いて、参っていたところだ」 早速隆敏が水の入った筒を宗明に渡す。それを飲み、人心地つくように息を吐いた宗明が、馬の腹に手を添えた。 「これほど、自分が無力だと思ったことはなかった」 一人ごちる宗明に何事かを言いかけた隆敏より先に、次の言葉を発する。 「これからどうするべきか。力を貸してもらえるか、隆敏」 「は」 短く、はっきりと隆敏が答えた。 *** 身支度を整えさせられた春吉と光正は、成明の元へ向かう駕籠に押し込められた。身じろぎをするにも苦労するほどの狭さに、光正は不満そうな顔をしながらもさりげなく春吉の腰に手を回す。

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