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「姉さん、僕、屋敷を抜け出すよ」

「耳を貸せ」 いぶかりながら顔を寄せる春吉に、耳打ちする。 「屋敷を抜け出すぞ」 疑問を表す春吉に、実はと言葉を続ける。 「宗明様は、昨夜隆敏様と抜け出されたらしい。どういう経緯で察されたのかは、わからないけどな」 ほっとする春吉の肩越しに、眠っている園の姿を目に留めた光正が大げさにため息を付く。 「このままだと、もう宗明様はどうしようもない。けど、隆敏様がおまえを連れ出して来いって言ったんだ」 「僕を?」 「せめて、どこかで隠遁生活が出来るようにしたいんじゃないのか。平民出身で、これだけ重用している側室は一人しかいないから、お互いに情が湧いていて出身の村に匿うとか、そういう算段が出来ると踏んでいるんだと思う」 春吉が姉に目を向け、少し迷ってから揺り起こした。 「姉さん、僕、屋敷を抜け出すよ」 覚醒しきっていない園が、ぼんやりと部屋を見回し、光正の姿を見つけて居住まいを正した。 「抜け出して、どうするの」 「宗明様に、会いに行く」 目を丸くした園が、光正を見る。体ごと光正に向いた園は、手をついて額ずいた。 「弟を、お願いいたします」

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