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春吉は成明の前に突き出された。
「女顔ではあるとは思うが、佳枝様を拝顔したことはないからなぁ。姉に似ていると言われたことがあるなら、似ているかもしれんな」
「そう、ですか」
落胆と安堵を含める春吉に、光正が首をかしげる。けれどそこから言葉を紡ぐことはなく、成明のところまで二人は無言のまま駕籠に揺られた。。
***
自室で筆を動かしていた成明のもとに、宗明の居場所を知っていると思しき者を連れてきた、という知らせが届いた。すぐに会おう、と返事をして庭に出る。そこには、刀を突きつけられて膝を付いた春吉と光正の姿があった。
「いかがなさいますか」
しばし眺めてから、答える。
「おまえ――俺の部屋へ来い。そっちは、別室に連れて行け」
「は」
二人は立てと促され、春吉は成明の前に突き出された。
「二人でいい」
春吉とともに上がろうとした者を、成明が制する。
「しかし」
「何も出来まい」
懐剣を取り出した成明が、ぴたりと春吉の眉間にそれを当てる。切っ先よりもなお鋭い成明の視線と気配に、一礼をした兵たちが光正を連れて去っていく。完全に姿が見えなくなってから懐剣を収め、なつこい笑みで春吉に手を差し伸べた。
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