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縋るような目を、春吉が光正に向ける。

「自らのお子を他所の養子に送り出したというし、成明様が靡かない原因は宗明様の妻であったということだと思うておられるんじゃないか」 急激な喉の渇きを覚え、春吉は唾を飲み込む。 「そんな」 「成明様には睦まじい相手がすでにいらっしゃるから、形だけは佳枝様を御正室になされたけどな。宗明様は側室も持たず、佳枝様だけを愛されていらしたから、同じようにされなくては不満なんだろう」 唇を噛み、春吉がうつむく。それをどう思ったのか、光正は猫なで声を出した。 「おまえの姉は、出自はどうあれ佳枝様によく似ているから求められたのだろうが、そのうち当人を見とめられるさ」 縋るような目を、春吉が光正に向ける。 「代わりではなく、求めてくださいますでしょうか」 「いつまでも代わりなどは、つとまりきらんだろうしな。もうすでに、代わりだとは思っていないのかも知れないが」 駕籠が揺れるように、春吉の心も揺れる。ただ一人、彼に愛されていた、子まで成した相手。その人が、宗明を陥れている。その意に添うように宗明は女を集め、その人に似た姉を見つけ――弟である春吉を求めた。 「あの」 おずおずとした声に、春吉の顔を覗きこむ。 「その、佳枝様――僕にも、似ているという事は、ありますか」 光正と目をあわさずに問う。口に出してから後悔が襲ったが、どうしようもない。無遠慮な光正の視線を感じながら息をつめた。

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