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「私も、望みのためだけに動けるのなら」
促されるままに馬に乗り、駆ける。宵闇に紛れての騎乗は月光に助けられ、それほど苦ではなかった。やがて古い庵の姿が見えてきた。隆敏は迷わずその裏に馬をつなぎ、宗明に入るよう促し、自分も後に続いた。すぐに内部を確認し、あたりを見回してから隆敏が灯明皿に灯りをつける。
「説明を、してもらえるか隆敏」
「それが、成明様がいらして急ぎこの場所に来るよう言われまして――それ以上は、何も」
隆敏が、成明から渡された紙を見せる。それを受け取った宗明は、頷き、目を伏せた。
「屋敷の様子を、見てきてくれ」
「しかし――」
「頼む、隆敏」
逡巡した後、一礼をする隆敏に頷いてみせる。馬の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、宗明は深く息を吸った。
「私も、望みのためだけに動けるのなら」
ふっと、息を吐く。
「それで心まで手に入るのなら、いくらでもしようと思えるのだがな」
答えるもののない言葉は、灯明を揺らした。
***
隆敏が戻ると、屋敷は取り囲まれていた――否、もうすでに占拠されていた。入り口にはしっかりと見張りが立っており、内部の様子を伺おうにも進むことが出来ない。隆敏がどこか忍び入ることの出来る場所はないかと馬を置き、屋敷の周りを廻っていると、こそこそと動いている人影を見つけた。
「何をしている」
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