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「すぐに、兄上を連れていけ」

*** 隆敏が仕事を片付け、宗明の所望する相手を呼びに行こうと腰を上げるとひそやかに来訪を告げる声がかかった。いぶかりながら襖を開け、驚く隆敏の横を影が滑り入る。 「誰も、居ないな」 「成明様」 名を呼ぶ隆敏に、自分の唇に人差し指を当てながら周囲を見回し、耳打ちする。 「すぐに、兄上を連れていけ」 「は?」 「説明している時間がない。すぐに戻らなくちゃいけない。裏庭に馬を用意している。誰にも知られずに、ここへ」 胸元から取り出した紙を押し付け、すぐに辞する成明の様子に首をかしげながらも、隆敏は宗明の下へ走った。 「宗明様」 「隆敏?」 「すぐに、こちらへ」 「どうした」 「何も聞かず、今は従っていただきたく」 隆敏の様子に、簡素な寝着姿の宗明は手近なものを身に着け、ちらと春吉のいる方向へ目を向けてから裏庭を経て外に向かった。 「こちらに、さあ」

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