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彼の心を求めていることを、自覚している。
「今宵は――呼んでもかまわぬだろう」
誰を、とは言わずとも隆敏にはわかっている。
「連れて、参ります」
すぐに立った背中を見送り、脇息にもたれかかって息を吐く。茜が藍に変わり、夜の帳が広がっていく室内で、同じような色をしたものが自分の中に満ちていくのを、瞼を閉じて感じた。
姉の、父のために身をささげた体を思い出す。隆敏に言われ、他の者を呼びはしたが虚しさだけが宗明に残った。何かを耐えるように震える睫。宗明が望んだことに応えようとする仕草。細く高い啼き声。
――あの者が、私を求めてくれれば。
あくまでも権力に屈しての行為だろうと、認識している。けれど、それ以上を望んでいる自分の叫びを、宗明は聞いていた。彼の心を求めていることを、自覚している。
――佳枝も、同じように成明を想っているのだろうか。
なりふりかまわずに、自分の父の権力を使ってまで望むほどに。それほどまでに、成明を求めているのだろうか。
――理屈も道理も通らぬ。
そういうものがあるという事を、宗明は始めて知った。佳枝を愛していなかったわけではない。一人息子も、愛おしい。けれど、それらをうっちゃっても構わないほど、春吉を求めている。理屈も理由もなく、初めて見たときから欲しいという衝動が、求められたいという願いが消えない。
――厄介なものに、囚われてしまったものだな。
宗明は、ひどく幸せそうな渋面を作った。
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