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代わり身、なのだろうか。
光正を突き飛ばし、立ち上がる。転がった光正に一礼をして、自室に走り込んだ。
荒い息を整えながら、今しがた聞いた言葉を反芻する。ただ一人を愛していた宗明。裏切った佳枝。恨むどころか、虚言を本当に見せようとした宗明。
――何故、僕を呼ばれたのだろうか。
女色に溺れた、というならば姉の園を求めるだろう。けれど、姉を呼ぶ気配は感じない。光正が言っていた、姉が佳枝に似ているという事が関係しているのだろうか。
――代わり身、なのだろうか。
姉を迎えた手前、呼ばなければ示しがつかない。けれど、裏切った妻に似ていることで何かを思い出してしまうのかもしれない。だからこの空棟を与え、表向きは園を呼んでいるふりをして春吉を寝所に迎えたのだろうか。
――でも、あの時……。
初めて会った時に向けられた視線を思い出す。あれは、確かに姉ではなく自分にのみ注がれていた。それを永久に独り占めしたいという衝動が自分に湧き上がったことを、思い出す。
気遣われながら愛された夜を、思い出す。
「宗明様」
夢の中にいるように口にして行李を開き、姉のふりをした折に身に着けた着物を取り出す。
――もう、呼んではくださらないのだろうか。
どれだけの数の側室が居るのかはわからない。毎日誰かを呼んでいるわけではないことは、毎夜、誰かが渡る気配がしないかと気にしているので知っている。
「宗明様」
呟き、着物に顔をうずめる。胸が、体が熱くなる。男を相手にしてみても面白くなかったと、思われたのだろうか。物珍しさから、呼ばれただけなのだろうか。
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