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自分が、女であれば。

「すまないな」 きっちりと戸締りをしていても、どこからともなく隙間風が入り込む家で、枯れ枝のような男がカサカサとした声を出す。ただの布着れと変わらないくらい薄い布団から出した手が、艶のある娘の手に添えられた。 「大丈夫よ、お父さん」 園を前領主、宗明の屋敷へ上げようという話が決まってから、毎日のように繰り返されている光景を春吉はぼんやりと眺めていた。医者に診せさえすれば治る父。美しいと評判の姉。 それを嗅ぎつけてやってきた金貸しを気丈に断っていられた時期は、もう過ぎてしまっていた。そんな中、園の美貌であれば薫風邸と呼ばれる前領主の屋敷にも入れるのではないかと、村の誰かが言い出した。女衒に身を預けるよりは、ずっといいだろうと親切ごかしている顔に、私欲が浮かんでいるのに気付きながら、春吉は何も出来ない自分に唇を噛んだ。 「そうだ。大丈夫だよ、彦造さん。園ちゃんくらい綺麗な娘さんなら、お屋敷に上げてもらえるよ」 見分に付き添うと言ってきた村長が、家族の心配とは違う部分を口にする。それに嫌悪感を宿した視線を向けても、うわついている村長は気が付かないらしい。そっと拳を握る春吉は、居心地の悪い空間から早々に立ち去りたい気持ちを堪える。――自分が、女であれば。そう思ってしまう自分に、嫌気がさす。自分の姉ならば、見分役の目にも適うだろう。女衒に連れて行かれるよりは、ずっといい。けれど、と自分に対する無力感が、園が屋敷へ上げられた時の恩恵を期待している者たちへの怒りへすり替わる。そんな自分に、余計に腹が立った。 「いらしたぞぉおおっ」 自分の内側にある暗い炎に目を向けていた春吉は、はっとして顔を上げた。声を上げた者は、その場所からこの家へ見分役を案内することになっている。家の中にある空気が引き締まり、それぞれが背を伸ばして運命の采配を待った。 *** 宗明は、中腰になって愛想笑いをうかべる男の背後を、物珍しそうな顔で周囲を見ながら歩いていた。その斜め後ろには、隆敏が控えている。その周りを、三人の男が囲んでいた。

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